魔の満月 詩篇「恋の柩」 (炎のうちにどんな秘儀が……)

恋の柩

炎のうちにどんな秘儀があるというのか
媾合の壁画と古代神の立像とが
高窓の鎧戸から洩れる 紫色の
光の箭を浴びながら
黄金の巨きな卵に呑み込まれる
肩まで垂した艶やかな捲毛が
胸の双丘を蔽うと
老女は生涯の枝脈を遡る
そのひと滴の中には 邪悪な舌をもつ
火蜥場の王国が匿されている
没薬にたぷらかされた息子らは
閉じられた芯になおも漿液を注いでゆく
破局は来た
それはなんという紅蓮の効果だろう

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』第2号 略称フネ/昭和50年刊/発行人・紙田彰/初出誌では坂西眞弓作としてある 1975)