旧作:197404: 魔の満月 第一部(習作)

灯が点く 風が吹く その接ぎ目にひゅーっと擦り切れた音が登場し 丘に立ったそいつはいよいよ挑戦的であった立場を意識し始める 血の匂いが充たす 策略が崇高に輝く星座たちの顔色をなからしめる 獣の生皮を纏うそいつは夜を彷徨する死霊の長に言葉少なに指示する 街の区画を浮かべる灯が深い沈静の奥深くへと絶え続ける 隙を縫ってひゅーっと低空を埋める鬼火が登場し 丘に立つそいつはいよいよ生唾を呑み込み言葉少なに指示を与える そいつの前歴は半世紀を地中に暮らした剛の者であると云う事の他に知らされない――そいつが再び現われる事のうちに偉大なる復讐の念がはからずも加担している事に疑いを容れないとしても そいつの長年研究調合したある種の薬物が取り出される 紫色に脹れる夜を映したその結晶物の面は金剛石の硬度を上まわる緻密な構造をもち中央部の空洞に呪いの暗号が詰められる 丘を彷徨する死霊の長は手渡されるその薬物を丘の外れにある貯水池に投与する まるで煮沸する如くきな臭いまっ赤な泡沫を吹き池の表情が一変する その表情が至る所の墓地に流されると槍の先の如く冷たく燃える鬼火の数が一挙に増加する 満足して報告を受けるそいつの男根が鎌首をもたげて全身が熔鉱炉の様に赤々く流れ出す 灯が点く 風が吹く その接ぎ自にひゅーっと擦り切れた音が登場し 丘に立ったそいつはいよいよ挑戦的であった立場を意識し始める そいつの長年研究調合したある種の薬物とはあらゆる兵器にも優った強力な毒物である その研究のために往復した時間は過去数億年に及んで 時代のあらゆる箇所に現われる支配的な生物の滅亡はこの研究の結果である 数時間経過すると街は涯てしない睡りに陥る 細部にわたって拡がる給水路が活発に毒を撒く 明け方 一斉に恐怖の声があがり肉の溶ける臭いが朝焼けの空をびっしり埋める そいつは眼をぎらぎら脂ぎらせ佇んだまま薬物の効果に酔い痴れる 風が吹く 生温く死の朝を裂く様に風が吹く 抜け落ちた頭髪 爪で掻きむしった顔が路地に転がる 潰れた眼球 潰れた睾丸 潰れた脳が地面に急速に吸い取られる 孕み女は胎児を股間にひきずって救いを求める 皮膚が蒼白に輝いて剥がれそれを影の様にひきずる群が街路にあふれる 血だるまの群衆が喘ぎながら口々に悲鳴をあげて不幸を呪う 胸から肋骨が飛び出し腐乱する肺が半ばはみ出て心臓のひきつった表情があふれ出る 街路樹が根元から次第にその組織を解体し群衆の頭上に降りかかる 土壌がゆるく波打つとともに徐々に液体化して群衆をひきずり込む