寄稿: 佐藤裕子 「傍ら」

傍ら 佐藤裕子

誕生日右側に視野を分け与え眠る一人に一人が譲る羽根枕
 影と光の制服を着てわたしたちは迎えを待っていた
若返る女神を吊り下げた地下室精霊に扮し姿を失った父親
 半分ずつ味わう落胆と諦めへ吸収された本当の母様
立ち眩む頭上は何重の軌跡挨拶を早める型通りの明くる朝
 花吹雪が騒がしい裏庭から小波を曳き逃げる地平線
触る聞こえる見える隔て境目のない充溢から抛られた露わ
 可能性の怪しさを潰す外片寄り過ぎる遠景を断つ赤
姉であり心細い震え見知らぬ者か同い年の妹遅咲きの球根
 策を弄さず無垢は迂闊な命乞い愛玩物が備えた数多
隠れて泣くのはあなたじゃない可哀想な子はわたしだから
 短日月の幼年期を繭籠りで長引かせた回廊の賢しさ
抱き締め擦り抜ける温もりが失われぬよう互いを包む帷子
 謎謎が尽きやがて迎えは来る片方が消える娘たちは
花束の凋む火点し頃窓を開いて温雨の破線を一心に紡いだ

(2016.3.13)