寄稿: 佐藤裕子 「鳥は知らなくとも」

鳥は知らなくとも 佐藤裕子

高熱で拐かされ行方が知れぬ手足は順路を食み出し迷い子
 鉱脈に根を下ろす砂山は宙天から零れ堕ちた地の跡
鈍重を曳く彷徨いが空へと続く川を下り四つ足で下る梯子
 保留のまま無限へ還る出来事が失くした人形と闊歩
創痍の太陽を共食いの雌雄が過る度火花を浮かべ滾る井戸
 道化師が現在を写し取る調べを運ぶ足踏みオルガン
用心深く夕景は紫を調合し止水を確かめ対岸へ進む修道女
 骨の者を訪う何度目の時効古の罪過は砕け金銀砂子
壊れ始めた他人の夢は未完灰になる薔薇には嘔吐する猶予
 トルソの両肺は翳りで読む手紙鎮火せぬ原を漂う壜
逢魔が時を照らす筆が欠落に胴体を挿げ送り届けた数日後
 倒錯衣装の脹脛に現れ消える隆起は残す擦れた刻印
思い掛けなく出会う水位を上げて見え隠れする画集の語群
 鳥に質す風向きは余計な煩い何の拍子で捲れた粗布
忘我と唇を染める時扉であり入り口と向かい合わせた思慕