寄稿: 佐藤裕子「帰還 I」

帰還 I 佐藤裕子

正装に選ぶ冠は黄ばむ花から紙屑に変わり老いて太陽が躄る
浮腫の脚が屈折を垂らし鈍るナイフを嚢に詰めた埋葬は滞り
言い包めるその場その場日増しに饐えて行く蜘蛛の巣の獲物
偽薬で爛れた顔貌を正視できず濁る水へ入る者が眼病を患う
患いが足へ伝染る頃には足は無く膿を舐めた渦から飛ぶ火粉
落雷に双肩を掴まれ類焼した文字列が水平線の方方を燃やす
息を継ぐ最中的中する口寄せ毛穴で喘ぐ疫病船が乗り上げる
虫の匍匐で進む黒子帆柱に供える犠牲を求め寝台を取り囲む
二度目は懐剣を外に向けた三度目なら悲鳴は巧妙に裂いた絹
侵入者を縛り付け傀儡師は吊るす痩躯を支える名残の妊娠線
蠢くほど物の姿は揺らぐ複写は狂うに任せ海図から消えた塔
巫女たちは壁伝いに滑る石段を降り杭で貫かれた捕囚を飼う
二十日鼠ほども回路しない思考を黄道へ流し込み暁は定位置

(2016.4.16)