寄稿: 佐藤裕子「十日特急112便」

十日特急112便 佐藤裕子

都市間バスの路面には発車時から並走する花がある白白と
 夜目に物言うオープンマウス聞き流す傍から曇る窓
寄る辺ない名当て所ない行方開く距離を堪える臆病な節度
 呂律の回らない振動音が接触するたび洞窟の反響音
毛布の包みは空カーテンの中は無人乗客は外出するもっと
 混み合う時間帯でも高速道路を飛ぶ命知らずの人人
盲野でトルソは仮面を探す頷く為の無表情より微笑む型を
 疎かにした日課は悔いリボンを掴み青毛を呼ぶ幼心
とうに昔話と傍観者を装う中空の庭師の落ち着かない手許
 どう選んでも同じこと熟知の迷路を探す迷うカード
帯封を切り濃霧を上り雲になる王王妃道化師や兵士たちも
 門を出て振り向いたあなたも仕草一行に働く鉤括弧
小まめに乗務員が通路を進むリズミカルな指差しカウント
 声のないことばで気管を狭めたアンバランスな笑顔
素知らぬ振りで花を拾い明日を迎える海の朝まであと半分

(2016.8.4)