寄稿: 佐藤裕子「天気雨」

天気雨 佐藤裕子

劇薬を盛り刀身をなぞるなぞった滑らかな飴色の指に触れ
 平衡に保たれた水位を覗く蝋の薔薇石骨化した波紋
結晶石は起爆を続け水言葉火言葉雪言葉その姿態それら声
 鉄火の甲冑と硝子の皮膚が幾度交差して幻像は縺れ
手の窪みで包んだ手の窪み思い出せば壊れ物を納めた震え
 練り香水が耳朶から離れ鳥獣の性で塒を目指す窓辺
越冬を始める枝影はステンドグラス踊る節足動物の写し絵
 餌壷にエーテル炎天の翼を畳む星明かりには通り雨
停泊する無風は塩を晒しひとつひとつの椀に微量を寝かせ
 月光を掬う夜の為に仄蒼い花片を贈り届けた雨垂れ
計器のない根無し草が海から上がり時の縁語で彷徨う上下
 嬰記号は紅潮し満ちる月と潮流と連絡する高まりへ
紅唇は喉を開き捲れ永遠と云う鍵の掛かった少年達を眺め
 熱は軽軽と軀を放ちトランスした回線が大きく攣れ
願いを積む高層か埋葬の深海から来た亡霊のように傾いて

(2016.11.15)