寄稿: 佐藤裕子「小猫」

小猫 佐藤裕子

土砂降りに震えていたのは皿の上の溶き焼き卵プチトマト
 公園の休日は芝居のようで気取って開くバスケット
恋人達は皆知らないうちにいなくなる彼も彼女もあの人も
 路地裏で迷子だと思ったら暖かい手に渡されて遺品
寄り添う影だったからどこかしら似ているなんて嘘も大嘘
 ほんの一瞬で惑いを引き出し動揺を与える哀しい顔
それがどうしてなのかを知りたくてずっと傍にいたのかも
 木綿の皺へ潜る朝方大胆で臆病な毛布を抜ける午後
舗道を金魚が走って行った後から後から数え切れないほど
 今年初めての雪が降る何処から何処へ肌寒い窓の外
もう少し話していて眠くなるまで眠ってしまってもずっと
 珈琲と煙草の匂いがする風何か思い出しそうな月夜
思い出すのはいつだって誰の為にも泣いて上げなかった事
 お別れを言われる気分はどんな感じ教えて欲しいの
覚えていて出逢った時に飼い主を飼う夢の話をしたことを

(2017.3.25)