寄稿: 佐藤裕子「絵図阿蘭陀船」

絵図阿蘭陀船 佐藤裕子

画であれば欺く女達は呪縛であれ笑みの種類は幸福であれ
 衣紋から断崖へ地下道から蹴爪連子窓を破る白い脛
金枝雀に絡まり蝶の群れを留め置いた髪一筋は闇の手土産
 零下の波間を半島まで漂流したその上はエトランゼ
結合し枝分かれし縒った糸がキリキリと切れ始める卓上で
 寝鳥は騙し船に乗せ遠称の朧ろ真似鶫に頼む手控え
月下美人が陽炎を上げ溶けた切り子の縁は口唇の跡で濡れ
 酩酊に任せ薄い耳たぶを放す翡翠の哄笑が続く手桶
現象が故を持ち線に従う海と唱え美酒雨と呼べば面背に雨
 傾斜する舷を操りながら身体を明け渡す嵐の異土へ
絵師の酔眼は碧の暈幾度描く顔に紗を掛け出会う筈ない裔
 変色した表具を引き抜いて背景を移動する阿蘭陀船
片片の円弧を繋いた鏡を一振り一振り濁らせる七色の絵筆
 閨の幻は一度限り軸物は白紙に返り夜の眠りは顫え
目分量の水で薄め濃淡のある午前二時ペイルブルーの氷雨

(2017.3.25)