寄稿: 佐藤裕子「アンテナ」

アンテナ 佐藤裕子

背信ではなく前進迷いは裏切り命取り絶望に手を貸す怠惰
 訳知り顔でときめきは不穏の兆候と謗る大袈裟な舌
立ち止まると胸中を読まれる敵と見做し反応するセンサー
 何か言いたげに俯いたきり一方にしか傾かない天秤
馴れる物は倦怠きえセンチメンタル懐かぬ物は観賞品備品
 換算した紙幣の枚数は常に台無しになる誠とは裏腹
辛うじてバリアの外へと矢印を向ける箇条書きはさかしま
 足音を隠す密告者は聴力を理由に空返事まで正当化
誰よりも知らない事を知っている名脇役の怪しさ信心深さ
 母を捨て父を捨て子を捨てる夫はとうの昔に捨てた
屋根裏部屋で傍受した信号は唯一つ何千何百枚の反古の谺
 油の凪に嵐の前の嵐嵐に乗じ激しく振れるアンテナ
壊滅状態ではない限りバスは出ると宣言した予約センター
 朝方から続く吹雪で高速道路は一部通行止めの沙汰
裸眼は走る直線で飛ぶ都市は出航間際の連絡船迄まっさら

(2017.3.25)