寄稿: 佐藤裕子「ゆくりなく」

ゆくりなく 佐藤裕子

古い行李で棘を刺す四季の半襟帯締め端切れで拵えた巾着
 鎖を掛け金モールで縛りチェコ硝子の首飾りを巻く
風呂敷に染め抜いた呉服屋の屋号と局番のない三桁の番号
 紫水晶の数珠に通し剣も鎌もない時は十字架を置く
俯き加減で祈る少女は絵物語の挿絵爪を立てて糊を剥がす
 浮き彫りが擦れたイエス様は心成しか微笑を下さる
袋の中に袋袋嵩のわりに軽いのも道理大切な物小さな秘密
 罪のない想いだった思い詰めると憧れ出る魔を知る
ゆらゆら陽炎に浮くアメジストロザリオを切る算盤ビーズ
 透けたハンカチに寝かせ羅紗紙と重ねた油紙で包む
空行のある日差しへ反射を投げて束の間の自転で摩滅する
 封筒を作り納める風呂敷は固く結び箪笥の底へ隠す
縫い取りを読ませることなく頭文字は捩れ煙になるローン
 増え続ける影を鏡に挟んだもう生成とならないよう
腐蝕した金属は生き物の臭い枷が掛かった真黒い鏡が二つ

(2017.3.25)