寄稿: 佐藤裕子「トロイメライジギタリスプラシーボ」

トロイメライジギタリスプラシーボ 佐藤裕子

冬眠する娘たちが鼻歌を奏でながら不調法にも鳴らす咽喉
 驚いて胡椒入れの陶器は割れ咄嗟に飛び出す三毛猫
もう一匹は満潮時ずぶ濡れで頭まで詰めた塩はメキシコ産
 沖合では縮む足を解き客船が歩を踏み外す星間航路
昇り切る折れ曲がった急勾配を立ち止まる砂地は遊園地跡
 思い出の部屋の入口は一つ俘虜が開けた横穴は沢山
折り畳んだ花片が積もる除けても除けても同じ女の百の顔
 ドライフラワーを食らう木馬木馬を駆るアルマジロ
鎧を繋ぐ装飾文字は切れ胴着を開け遠出に出るスピード
 護身に歯痛止めに蜜蜂を呼ぶ為に眠りへ入る持ち物
菩提樹戦ぐ丘から吹く風を1カラットずつ包に込めて弾丸
 昏睡より睡魔と遊ぶ行きつ戻りつ徐徐に手離す雑音
伽する羊の寝息を数え幸の木が伸びる駆け足紛れ込む小言
 夜の大河で滲んだ色を晒し浮かぶままにしりとりを
もっと深い二度目の眠りをおやすみなさいハミングバード

(2017.3.25)