連載【第028回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: grillo 1

 grillo 1
 嬰児はすでに幼児となって、ひとつの形を表しているのかもしれない。そのグリロという名の器具は光の線分をまとめて冠状波紋を撥ね上げ、その尖端を結びつける糊のように粘着的な接合を不規則に続けていく。それらの接合箇所はとげとげしい光を帯び、ギザギザの閃輝暗点のカーブをつくり、幼児をその奥に囲い込んでいる。光はグリロの筆先になっているのだ。幼児は井戸の中の意識の鏡体とでもいいえよう。閃輝暗点を生み出した脳内中枢の血管の瞬間的な収縮が、血流を一時的に変化させる。そのときに意識の鏡体となり、絶対反射の球面となるのだ。

――そのとき、わたしは球体の表面に吸い込まれ、そのことによって鏡体自体と同化するのかもしれない。わたしの性は時間とともに失われていくのだわ。わたしは溶けゆく過程で、グリロとは少年の名であるのか、鏡体に違いない少年の形をいうものなのかと、自問を繰り返している。

 ところで、意識は実体を持つことは不可能なのか。意識が幻想に過ぎないものなら、物質には作用しないはずだ。物質それ自体に絶望という概念が生ずることはありえないが、意識が絶望したときそれによって自殺するのは意識ではなく、その吐息に触れたあまりにはかない物質なのである。物質の死があって、それから意識の死が訪れる。
 物質と意識にはそもそも相互作用などあるのだろうか。それともそれは相互作用というようなものではなく、ただ互いに語り合うことが不可能なものにすぎないものなのだろうか。(つづく)