連載【第074回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare III: 〈chrysanthèmes〉

 nightmare III

 〈chrysanthèmes〉
 それはDNA生命系の夢、その破片。光る砂のようにさらさらと舞い落ちて、その侵襲がやむことはない。永遠に生きられないのだから、生きているものを貪り尽くそうとする。か弱いのだ。そのか弱い意識は、細胞と魂を飽食し、魔物のような国家を通じてファシズムの夢を見ているのだ。孤立した一匹だけが支配する世界のために。その生命系は配下に、どんなに膨大な数の自己複製の個体があっても、ただ収斂され続ける一個の生命体でしかない。まさしく、この壊れつづける夢の破片は癌細胞である。深い穴底に落下し、いっそうばらばらに飛散し、黒い墨のような液体を吐いて、生命体を不穏な夢で蝕んでいく。一個の世界意識しか持たないから、これを逸脱するあらゆる叛逆は、徹底的にして破滅的な弾圧の対象となるのだ。
 とはいえ、反国家という慄えるように魅惑的な戦意は起ち上がる。そして、だれが、どの細胞が、どの意識がその尖兵となるのだろうか。

 私は広い土地に連れて来られた。見渡すかぎり、座標を示すものは何もない。何もない平面と立体が大きく広がっているだけなのだ。その接点に区別はない。直立物体は平面に埋没している。しかしそれでも、平原の向こうには山と海と川がすべて備わっているはずだ。
 完璧で単純な平面。思考の中の平面。曲率など存在していない。反自然であることが明らかな、まるでつくりものの陶器のプレート。見上げても、ここには宇宙はない。
 本当に二次元なのだ。私は地面に押しつけられたぺらぺらの絵だ。これまでの歴史もぺらぺら。身体もぺらぺら。国家もぺらぺら。魔物の力はすべての厚みを強奪する。(悪夢 III〈菊の花〉)