影の山脈 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

一、痕跡する朝ゆきの唄
痕跡する
老犬の宇宙吠え
指掏りの眼底から
単調の霜柱のふる……

朝ゆきの唄
見晴し台から河口へ下る
水銀の薄い層 また
星占いのふやける鼻先から
水底の沈み砂

展べよ 橋の蒸気し
狂える逃走 空放つ
火の仄かな身重 その
みちゆき者の熱い皮膜
夜の道よ!
紺碧の空ただよえば
重い葉の毒の洩れ 海の
彩圧層を ひときわ
繰りなす 拡がる視線魚
睡眠に軟骨を匿れ
瞼の切れ末に 日輪を
陥ちてゆく――

二、光束の山岨ゆけば
光束の寄せ場に
盲点の羅列 耳朶裂け
地平線に汲み上げる陶土ひとかけ
夢に追ってゆくと
影法師のなだれおち
稜線を錐突けば 反射塔の
天果つ 息跡……