【登録 2003/12/25】  
紙田治一 遺稿[ 医療 ]


クランケの呟き

4 医師の先入観


 ディアベティス・鎮痛剤の連用・中毒・習慣性と、先入観で診ていた彼は、「痛い…… 」と訴えても信じない。(私は入院前にE医師の指示でソセゴンを3回注射してもらった。痛みには、もっぱら非ピリン系の消炎鎮痛剤を内服していた。もちろん麻薬どころか、非麻薬のソセゴンも使用したことはなかった。)
 彼は術前術後も、鎮痛に麻薬やソセゴンなどの注射の指示はしなかった。脊髄硬膜外麻酔を留置カテーテルにて注入して鎮痛をはかったのである。
「痛いときは、いつでも注射しますよ」とA医師は言ったが、ナースは4時間経たなければ打てぬという。4時間は完全に効果があると言っているが、全然効かなかったり、効いても2時間くらいで劇痛が襲ってくる。
 ナースに痛いから麻酔を頼むと、
「4時間経っていないから駄目」
 とにべもなく断られる。
 なおも頼むと、
「A先生の指示がないから駄目」
 夜間だと、
「朝まで、待ちなさい。A先生が出て来たら報告してあげるから」
 と、病室を出て行ってしまう。
 Tナースと注射で喧嘩になって、一晩中、我慢させられた。夜半過ぎには激痛のため失神状態になったこともある。
 また例の「後で……」の一言で忘れられたこともあった。
 実に、痛みと鎮痛の訴えのやりとりが最大のこととなり、ひどい精神の消耗にすっかり打ちのめされ療養生活の日々を過ごした。

(未定稿)

[作成時期]  1989.1.11

(C) Akira Kamita