【登録 2003/12/26】  
紙田治一 遺稿[ 医療 ]


クランケの呟き

7 死の転帰


 私のような事由で、治すためがかえって悪くなった、不具者にされた、死に至った者……、そんな不幸な転帰を辿ったクランケも数多い。
 酷いのになると、子供の産みたい女性に、人工中絶(流産の手術)を他人と間違えてやったり、レントゲンの写真だけ見て、それも勝手に見間違えて、健常な腎臓を摘出する、輸血の間違い、チブス菌をクランケに投与した某医科大学の研究医などなど、例を挙げれば切りがない。モラルの低下とばかりいえない。人間としても欠陥人間がアルットになっている。クランケよ、御用心、大御用心。

 Sクランケ:両下腿の骨折(15年前の怪我)の後遺症を、オペの失敗から極端な短縮と屈曲で歩行障害が重くなって、再度オペを勧めるアルットの説得も無視して、自分から退院していった。口ではありがとうとお礼をいい、心中では恨みと怒りでいっぱいで……。

 Fクランケ:頸椎腫瘍でオペをしてもらったが、アルットの技術の未熟なため失敗し、四肢、特に下肢麻痺が強く歩行障害になり、リハビリテーションのため入院しているが、頻尿があるので、膀胱炎で腎盂炎になってはと、24時間水を飲ましている。人間洗淨機で昼夜を問わず[チュー、チュー]と水を吸っている。尿は1日4〜5リットルくらい。
 ウロ(泌尿器科)専門のアルットのいない病院、オルト(整形外科)でただ漫然と尿中の細菌検査のみで治療は抗性物質と水呑みだけ、これじや治療ではない。ウロの専門的診察を一度でも受けさせればどうかなと思う。彼は本当に膀胱炎なのだろうか、誤診ではないだろうか。尿中に細菌がいるのかな……?
 若い22歳の青年で、性機能は発達している。ペニスは勃起する。特に若いナースが傍に来ると、ペニスのエレクチョンは逞しい。一段と激しいマスタベーションも、夢精もするのをよく見た。尿中にザーメンが混入しているはず。ナースは検尿時の採尿は、彼専用の屎瓶から採取している。検査室もお粗末だ。果たして破壊したザーメンと、細菌の鑑別ができるかな?
 果たして検査は正確なのだろうか。抗生剤は効いているのだろうか。このままでは衰弱して、やがて死の転帰を辿ることは明白である。
 彼に対するナースの看護は、不治の疾患とアルットから聞いているのか、二、三のナースを除いては、真に不親切で荒っぽい。ナースコールを鳴らしても来ない。それで、彼は私や他のクランケに頼んでナースを呼んでもらう。ナースが来て彼が用を頼むと、ナースはブツブツ言いながらやってやる。尿が多いので、屎瓶を常時3個置いてあった。
 食事のときもひどい食べさせ方で、早く食べろと、無理矢理口を開けさせ、食べ物を押し込む、食べ物は喉に詰まって下がらない。苦しくなって、しまいにはパッと吐き出す。
 ナースは、
「穢い……。食べたくないから、わざと吐き出すのだね。もう食べさせてあげないから」
 と怒って、お膳をサッサと下げてしまう。
 中にはひどいナースがいて、
「お前の面倒なんか看ておれない。お前なんかどうせ治らないんだ、早く死んでしまえ」
 とズケズケ言っている。彼は後でワンワン泣いている。こんな言葉をナースが言ったりしてよいものか。呆れるとともに怒りが込み上げてきた。
 私達、同じ病室のクランケは腹立ちと怒りを抑えるため、食欲不振に悩まされた。月1回200キロも遠い釧路から面会に来ているお母さんも、これを知って、泣いて口惜しがっていた。

(未定稿)

[作成時期]  1989.1.11

(C) Akira Kamita