【登録 2003/12/26】  
紙田治一 遺稿[ 医療 ]


クランケの呟き

9 退院のススメ


 A病院でのクランケの呟き――病院管理、治療、給食、ナースの看護態度など。

 Wクランケ:腰痛で入院約3ヶ月、その間診断は2、3回変わるし、治療も変わる。おまけに主治医まで変わる始末。
 Wさん、こんなことでは、年も72歳になるのだから、いつまで入院していても前と同じで、さっぱり良くならない、身体が鈍ってしまう。頭も入院ボケのせいかボーッとしてきた。
 私に相談を持ちかけてきたので、私は「アルットに、退院して通院できませんか」と聞いてみなさいとアドバィスしてあげた。
 翌日、回診のとき、アルットに言ったところ、アルットも持て余していたらしく、[じゃ、退院して、家も近いことだから、今後通院してみますか]と許可が出た。
 Wさんはその後1回来たっきりで、家業の印刷の仕事を手伝っている。暇ができると、これまでやってみたかったことに夢中になっている。温泉で湯治や遊びの旅行を楽しんでいるとのこと。
 本当によかった。あのままずっと入院を続けていたら、入院ボケ(拘禁反応症侯群)、動かなくて廃用症侯群となったやもしれない。恐ろしいことだった。Wさん、楽しい余生を送ってください。

 Hクランケ(男性)の場合:治療には大して不満はなかったが、彼はマーゲンクレーブス(胃がん)のオペの既往歴があり、普段から食事には好き嫌いが強い人だった。
 食事時間になると、病室から出てロビーへ来る。私もストーマのため食べられない物が多かったので、食べずにいて、よくロビーに行った。
 そのときの話題は病院給食の内容、時間(午前8時、正午12時、午後5時)の問題、夕食の午後5時は早過ぎる、冷えている、お汁はこぼしてお膳はびしゃびしゃ、見ただけで食欲不振、焼き魚は冷たく硬くなって身もむしれないなどなど……。
 Hさんはとうとう我慢ができず、半月早く退院、温泉に行ってしまった。
 これは病院給食に一考を要する問題である。
 栄養、カロリーばっかりで、調理方法、温度、時間、食器や盛り付けなど、配慮が欠けている。自宅から食事を運んで貰う、外食(院内売店、食堂)、出前で栄養や体力の維持を計らせるようでは、食物は薬より大切なことを忘れている。
 一番極端な例は――。食べられないといえば、待っていたとばかりに点滴注射にくる。食欲はさらに減退する。と、また点滴注射、ますます食思不振となる……。車輪、歯車の逆回転だ。
 老人医療に特に多い。病院給食は食べなくても、菓子や外食、出前、自宅の弁当を食べているのに点滴注射を続ける。ビンを掛けて歩く、中にはロビーに煙草を吸いにくる……。こんな姿を誰も不思議とも思わぬようになっている。
 点滴注射は生命維持のため必要な治療方法ではあるが、なるべく食べさせるように工夫すべきではないだろうか?
 ちなみにHさんは、右大腿骨骨頭骨折(駅のホームの階段で転倒し受傷)で入院治療して、ほとんど治り、リハビリテーションを行っている、ただそれだけの、近くのマンションの経営者であった。

(未定稿)

[作成時期]  1989.1.11

(C) Akira Kamita