クランケの呟き
16 格子なき牢獄
ナースの夜間パトロールに一言。ほんの一部のナースを除けば、クランケの就寝状態を見て廻り、異常を早期発見することを目的としている。しかし、ナースの中にはどう勘違いをしてか、ドアはガターンと開けるは、懐中電灯を点灯して、寝ているクランケの顔を照らす。これはたまらない。せっかく寝ていたのに、ドアのガターンに浅眠になる、そのうえ顔を照らされるじゃ、たまったものじゃない。いっぺんで目が覚めてしまう。それから朝まで眠れない。不眠、睡眠不足になってしまう。これはなんとかして欲しい。刑務所の脱獄監視と同じではないか。いくら格子なき牢獄とはいってもね。
これまで、一部のナースの悪口ばかり並べたが、一般に大半のナースは自己犠牲、家族犠牲の環境の中で人手不足(低医療政策と定員不足の慢性化)、過重な労働時間(夜間勤務の多回数)に堪えて、患者の母、姉のごとく、白衣の天使として、親切で、温かく、優しい看護をしている(クランケの呟き――こんなナースばかりだといいな、と)。ナースの過酷な面を、一日も早く改善することを要求したい。
ナースは結婚して子供が出来ると家庭に縛られて、大半は退職する。しかし技術と資格(看護婦免状)があるので、子供が少し大きくなると、再就職を希望する者が多いが、彼女たちの最大の難関は、子連れでの働き場所がなかなかないこと。家庭に子供をみてくれる者(姑か、実母、夫、その他)がいないと不可能である。職場に保育園のあるところを選んでいるが、それも数が少ないので苦労している。ナース不足の解決は結婚、育児にも安心して勤務ができる体制を造ること。このことを政府、行政の面で行う必要がある。
老人医療問題は人口の老齢化が進む今日、ますます重要になってくる。家庭に人手が足りないか、手を取られて、家庭経済に重大な影響を来す。終局には一家破滅、自殺などの問題が起きる。社会福祉の問題は今後の全国民の課題であり、21世紀に向けて、政治、経済、人道的に解決しておくべきことである。
今、老人はボケを第一に、病気、怪我を恐れている、核家族は進展している。住居問題も深刻化の状況下では、自分の将来に対して不安と焦りを感じている。こんな老人は病の中に逃げ込もうとする。頼りにするのは医師や看護婦、福祉の関係者である。老人の悩みや愚痴を聞いてやるときは、やがて自分も老化する者として、相手になり、相談に乗り、励まし、共に解決策を考えることが必要である。待合室の老人サロン化と独占についても、退院したがらない老人患者の心情を理解してやるべきだ。
(未定稿)
[作成時期]
1989.1.11