【登録 2003/12/29】  
紙田治一 遺稿[ 医療 ]


クランケの呟き

18 診療契約


 0さんの話。
「某有名大病院で子宮筋腫で手術を受けた48歳の主婦(結婚期を迎える娘が3人もいる)が、1回目の麻酔で痙攣が起きていったん手術を延期したが、再度同じ麻酔で手術をしたら、今度は意識不明のまま4ヶ月になっている。長女が年が明けたら結婚式を挙げるのに、お母さんが意識不明で入院しているので、その家庭では大変困っている」
 と話していた。
 麻酔事故だが、ここに問題がある。有名大病院だからと信頼して手術を受けたのだろうが、麻酔事故を起こすのは、医師の患者に対する、特異体質に無関心か、無責任な、普通常識で考えられぬ出来事である。
 しかし、病院は巨大になるとともに傲慢となり、管理指導教育もマンネリとなり、また従業員も、病院の先輩の築いた名声を自分が背負っていることを忘れた惰性と気の緩みが、とんでもない麻酔事故を引き起こしたともいえる。
 患者の家庭は予想もしない大変な損害(金銭的、精神的)をもたらした医療事故の犠牲者になった。ご同情申し上げると共に、予後の良否は問わず、今後の社会に対する警鐘と、その責任を追及する意味においても、ぜひ賠償訴訟を起こされることをお勧めしたい。
 診療契約違反裁判がこれから盛んに行われて、患者や家族の権利が守られる。一方、診療側の医師や医療関係者が、今後の診療に対して慎重になり、生命と医療に真剣に取り組むための警鐘となるであろう。どんな僅かな過失も許されず、マンネリズムも不勉強も罪悪となることに心づくようになるであろう。その上にたって、今後の医療の進歩がある。

 たゆまざる研究は医学者、医療臨床家の最大責務であることは、万人の知るところである。それが、患者と医師が信頼関係で結ばれている大きな要因である。
 診療契約は契約書の取り交わしの必要のない、相互信頼から生じる自然契約成立である。医療上で契約書や同意書の有る無しが責任の回避にならない。書類より正確で、より高い医療行為の実行が、最大の責務の遂行であるからだ。

(未定稿)

[作成時期]  1989.1.11

(C) Akira Kamita