【登録 2003/08/01】  
紙田治一 遺稿[ ある医師のストーマ闘病記 ]


ストーマについて 2

E)ストーマ(人工肛門)を造設するアルットばかりでなく、クランケ・家族も消化器での食物が消化、吸収、排便される経路を知識として持つべきである。

 口)口は食物を摂取するべく吸ったり、噛み砕き、味わったりし、唾液の分泌(デキストリン)に因って、含水化物の消化を行なって、食物を滑らかにして胃の負担を少しでも軽減させる。口から食塊は食道によって胃に運ばれる。(咀嚼・燕下運動)

 胃)食物を見たり、味わったり、匂いを嗅いだりしただけで、胃液が大量に分泌されて、食塊を受け付ける準備をしている。胃に食物が到達すると、ガストリン(ホルモン様物質)が造られ、これによりさらに胃液が分泌される。胃液は主細胞から分泌されるペプシンや傍細胞からの塩酸や副細胞で造られる粘液が混合して出来た透明な液体で、胃の消化作用、主に蛋白質の分解に寄与している。(脂肪と糖分は胃では消化されない)(胃内容物が十二指腸に入るとその消化産物は二次的に胃液分泌を促進させる)(脂肪性食品が入ると十二指腸粘膜にエンテロガストロン〈ホルモン様物質〉が造られ、かえって胃の運動を抑制する)

 小腸)(十二指腸・空腸・回腸)全長6−8m(身長の約4−5倍)表面積10m(約8畳)十二指腸(指を12本横に並べた長さ)空腸(2−3cm)回腸(2−3m)胃の運動によってドロドロに捏ね合わされた食塊ないし胃内容物は、十二指腸に入るとピリキニン(ホルモン様)によって小腸の絨毛が動きだし、栄養分を吸収する準備を始める。腸管壁の筋肉自体のぜん動運動にて、栄養分の消化吸収の一層完全にする重要な部分

 1)十二指腸……セクレチン、コレシストカニン−パンクレオザイミン(ホルモン)の作用で膵液(トリプシン、アミロプシン、ステアプシン含有)胆汁(ビリルビン含有)が流れ込んで来る。腸液(十二指腸自体から分泌−エンテロキナーゼなど含有)とともに、澱粉(含水化物)、蛋白質、脂肪の消化に寄与する。

 2)空腸、回腸……小腸では腸液によって食物の消化、分解が完全に行なわれると同時に栄養素が吸収される。糖分はマルターゼ・インペルターゼ・ラクターゼ等の酵素によって分解され、葡萄糖・果糖又はガラクトースとして、蛋白質はエレプシンによって分解され、アミノ酸として吸収されて血液となって、門脈を通って肝臓に運ばれる。他方、脂肪はリパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解され、淋巴管に吸収される。その他、鉄・カルシウム・食塩・硫酸等の各イオンや脂溶性ビタミン(A、D、K、E)も吸収されることが多い。回腸ではコレステロール・胆汁酸やビタミンBが吸収される。回腸終末部では水分と僅かながら脂肪も吸収される。

 3)回腸終末部……大腸に入る寸前の部分(約10cm)を回腸終末部と呼ぶ。直経約2.5cmで小腸の中では最も狭くなっている部分である。十二指腸や空腸では内容物が比較的早く運送される。小腸最後の回腸とは細い腸管が何重にも回りくねって、盲腸へと連なっている。大腸の入口は回盲弁と呼び、これが30秒毎に開いて、内容物が盲腸へ送られる一方、閉じて大腸の内容が小腸に逆行するのを防ぐ。ここの部分を手術によって失うと、腸内容の逆流が起きて、小腸の細菌学的結腸化(小腸には従来、細菌が住めないといわれているが、結腸化が起きると大腸菌のような結腸常在菌が小腸へ移住することがある)と併せて脂肪酸と脂肪の結合が障害されて下痢便となり、またビタミンBも、これら細菌のために障害を受けて、いわゆる悪性貧血を起こすことになる。小腸の大部分を切除すると、小腸粘膜の働きをする絨毛が肥大して、腸の適応化が起きて、絨毛は高さでは2倍に、表面積では4倍となるので、理論的には75%の腸の切除をしても代償出来ることになる。食物が口から回盲部に達するまでの時間は、約4−6時間である。

 4)大腸……盲腸(盲腸の左下後壁から虫垂が出ている)ヒトでは長さ5cmくらいである。草食動物では50cm以上あって、腸内細菌の作用で食物中の繊維質が消化されるといわれている。

 盲腸から上方(肛門の方向)に送られる糞汁は右側腹部の上行結腸を通って、肝臓の下で左前側にまがって、横行結腸に入る。このへんでは内容物は液状から粥状へと変わってくる。横行結腸は胃の下を通り、脾臓の下端で曲がって下行結腸となり、左側腹部を垂直に下がる。左下腹部ではS状に曲がってS状結腸となり、骨盤腔の真中背側を下がって直腸に入る。
 食物が胃に入ると、反射的に横行結腸からS状結腸にわたって大蠕動が起こり、大腸の内容物は直腸へと送られる。食事をすると排便したくなるのは、このためである。ただし、副交感神経(迷走神経と骨盤神経)が切れると、この胃・大腸反射は起きない。
 食後、結腸末端(S状結腸)に達する時間は12−15時間といわれている。
 以上、全長約1.6mの大腸を通る間(約10時間)に粘膜は小腸で消化された残渣物から、水分やナトリウム、クロール、カリウム等の電解質を吸収し、粘液や重炭酸イオンを分泌して大便をつくる。また大腸の粘膜から分泌されるアルカリ性の粘液は、内容物(糞便)の移送を容易にするだけでなく、大腸粘膜を保護する働きもある。
 大腸の働きには、蠕動と大運動との2種類がある。つまり、腸の筋肉が収縮したり、弛緩したりしながら、腸内容物をよく掻き交ぜ、捏ね回して、水分を吸収して糞便をつくる。そして、大腸のある部分でその糞便が溜まってくると、大腸の筋肉は弛んでどんどん伸びて行き、これ以上溜めておけないくらい伸びきってしまうと、そこの内圧が高まって粘膜内反射が引き起こされ、蠕動よりも強い力でその内容物を次の大腸部分へ送り込む仕掛けになっている。

 5)直腸・S状結腸に続く長さ約15cmの腸管最終部で肛門に連なる。
 男子では膀胱や前立腺の背側を、女子では子宮と腟の背側を下がる。大便は下行結腸からS状結腸に至る部分に溜まっていて、ある量や重さに達すると、大運動によって直腸に送り込まれ、ここで内圧が40−50mmHg以上になると、便意が起こって、内肛門括約筋が弛み、腹圧が高まった時に、肛門挙筋と外肛門括約筋とからなる門があいて、排便が起こるようになっている。

 以上、消化管を各部位別に述べた。消化管には皮膚で感じるような、温冷感覚も痛覚もないが、交感神経や副交感神経のような自律神経(食道−右結腸は大・小内臓神経と迷走神経、左結腸−直腸は下腹神経と骨盤神経)を通して、食物や薬物に敏感に反応したり、感情や心の動きによって鋭敏に影響を受ける。また腸管壁内にも独自の神経叢があって、腸管の運動に預かっている。腸管運動の高位中枢は延髄にあることもわかっている。例えば腸は1秒間に約3cmの速さで蠕動しているのに、ある刺激が神経叢に伝わると、小腸の蠕動は亢進して1分間に3mもの速さに達し、十分な消化吸収が行なわれないまま排便されることになる。つまり、お腹がグルグル鳴って下痢になる。もし、高位中枢に刺激が加わると、そのほかに、眩暈や吐き気などの症状も出てくる。
 食物は口から入って、肛門に出て来るまで、平均40時間かかるのが普通だが、個人差もあって、一般に12−120時間といわれている。
 人工肛門を造設する場合と、その後の人工肛門リハビリテーションの予備知識として腸切除後代償作用に就いて述べる。
 消化管には、ある一部分が病巣になったり、切除されたりして、その機能が営めなくなった場合、残存の消化管の一部分が失われた機能を代償する作用があることが知られている。また逆に、ある一部分の作用が過剰になると、それを抑えるような働きをする、その細胞がその部分に出現したり(胃の腸上皮化性、小腸の胃上皮化性、大腸の小腸上皮性等)、その過剰性ゆえに、自らの細胞をも殺したり、消化したりして、その細胞の数や機能を少なくしようとする現象(潰瘍や萎縮性炎症)もある。これらのことは、腸切除を受けた後の腸は再生しなくても、残存する腸が、その代わりの働きをしたり、適応馴化が起きたりすることを暗示している。実際に、手術を受けた当初は下痢が続いても、半年も経てば正常の硬さの便になることが経験されている。

1)大腸の小腸化

2)小腸の大腸化

3)結腸の直腸化
 シュミットの手術(ストーマ腸管に自己平滑筋を移植する)のように特殊な手術を受けた場合、自然肛門の働きに似て、意識的に排便出来る。ストーマ結腸は直腸と同じように便を貯える場所となり、排便の調節力も出て来るようになるらしい。

4)小腸の直腸化
 コック術式では、回腸瘻となる手前の小腸を二つに折って、重なった隔壁部分を切開して袋状にし、その出口もわざと腸重積様にして逆流防止弁とする。1日数回任意にカテーテルを挿入して排便する。このような貯溜嚢を持ち、調節排便出来るということは自然の直腸と肛門に似ている。

(未定稿)

[作成時期]  1988

(C) Akira Kamita