【登録 2003/08/26】  
紙田治一 遺稿[ ある医師のストーマ闘病記 ]


私の病歴 4

 私は幸いにも、1987年10月25日、S状結腸の12.5cm切除吻合の手術によってストーマから解放された。その間のさまざまの出来事は、初経験、新発見で貴重なものであり、自分が外科医として、患者の体験として、気づいた点と反省、感想を述べたい。

1)ストーマによる精神的負担は甚だしく深刻である。
 何事を始めようとしても、まずストーマの点検をしてからでないと行動に移れない。そればかりか、腹の調子に気を配らなくてはならないのである。また、心ない人の視線や言動に甚だしく自尊心を傷つけられ、過敏になって、腹立たしくなる。特にパック交換をしている時など、物珍しげにじろじろ見られると、恥部を見物されているようでいら立って来る。ある時などは怒鳴ったこともあった「見世物じゃないぞ……」と。
 男性でもこんな具合であるのに、女性はもっと深刻な悩みと苦しみが大きくのしかかっている。D病院で同病棟に入院していた女性患者は4人部屋のためと、トイレに行けぬ身体なので、特に気づかいと恥ずかしさに苦しんでいると、同病の私に話していたが、1987年3月31日、東京に転院すると別れに行ったら泣いていたっけ。

2)糞便臭を自分も感じ、他人にも迷惑を掛けるのではないかと気になる。
 部屋全体が臭いが篭もっているようで、私は臭い消しや香料を散布していたものだった。

3)時間の浪費と、金銭の負担は計算出来ないくらい、大きなものである。
 パック(糞便の収納袋)、接着剤、ベンジン、濡れナプキン、テイッシュペーパー、トイレットペーパー、ビニールパック、輪ゴム、包装紙(新聞紙)などは最低限度必要であり、パック交換に費やす時間も大変なものだが、必要品の購入金額も1カ月に約3万円くらいはかかる。1−2年か、または一生死ぬまでかわからぬ。その間の費用の負担は計り知れない金額となる。私は11月間で約66万円、月平均6万円くらい(パック、接着剤は私費で購入したので)かかった。保険では月7500円の療養費払いになるが、雀の涙であろう。前に述べた彼女は医療保護法を受けていたので、金銭的にひどく困って苦しんでいた。こんな患者はたくさんいるはずだ。私はマンソンのパック、ローンタイプの接着剤を買って使用していたが、それだけでも月に3万円は購入費はかかった。費用負担を保険で増額すべきだ。

(未定稿)

[作成時期]  1988

(C) Akira Kamita