ああ……悲劇の通化暴動事件!
六十、第二、三中隊も潰滅
第二中隊阿部大尉以下百名は、元竜泉ホテルの中共軍司令部を襲撃した。ここでは勝負は初めから明かであった。
武器らいしいものは拳銃一丁、まずそれで銃弾を叩き込むのと同時に攻撃に移った。さすがにここの装備は優秀で、重機関銃、軽機関銃をズラリ据え付けて待機していた。斬り込み隊を全く建物に近づけないないほど撃ちまくってきた。戦闘は三十分で終わった。
「退がれ!」泣くような声を振り絞る阿部大尉の号令で、生き残った数十名が後退した。中共兵は執拗に追って来る。
ついに日本人街まで逃げ込んだ。それへも銃弾の雨を降らせてきた。家々で女や子供の泣き叫ぶ声がする。ヒュッ、ヒュッと銃弾が飛ぶ。慌てて戸外へ飛び出してくる者もある。
「出るな! 出るなァ!!」それが日本人のために起った反乱兵達が、今となって日本人を庇う最後の声であった。
県大隊は元の市公署にあった。ここを襲撃したのは寺田少尉指揮の第三中隊の約百名であった。最初、孫耕暁からの連絡では、県大隊中の四百名が内部から反乱軍に呼応して起つ手はずであった。
だが電燈点滅を合図に斬り込んで行くと、猛烈な反撃に出てきた。今か、と思ううちに斬り込み隊はばたばたと倒れていった。
ついに寺田少尉以下は囲みを破って脱出するほかはなかった。三個中隊はことごとく失敗したのである。
蜂起軍が最も期待していた林少佐指揮の航空隊は、第一別動隊として出動するはずであったが、中共軍の先制包囲にあって身動きできず、ただ銃弾の音と硝煙を望見するだけに終わった。
第二別動隊の木村大尉指揮の戦車隊三十名の出動も空しく潰えた。定刻、戦車のエンジンがかかり、いよいよ出撃というところを発見されたのだった。
「強行突破せよ!」と木村隊長が命令する間もなく中共軍は銃撃してきた。戦闘に至らないまま戦車隊はついに行動を中止した。
「戦車はまだ来ないのかー! 戦車!……戦車!……」そう叫びながら雪の上で息を引き取っていく若い男達!……。
日本刀にスコップで襲撃していった彼らは、それほどまでに戦車隊の来援を待ちかねていたのだった。
(未定稿)
[作成時期]
1989.04.11