【登録 2011/10/23】  
[ 詩篇 ]


〈寄稿〉

鬩ぐる

鬩ぐる
水晶をゆるむ塔に篝る
赤赤く発情される蟒を夜景
煌やまぬ埠頭からの鬩ぎ

鬩ぐる
青春に諒恕させて
儀祭をためらわせ
ふるえる存在のしがらむ

メビウス環を変成されて
彎曲の 時制 ( テンス ) が絞殺しながら

鬩ぐると
蒼光る海猫に鈴鳴り
いつか
銀濁される 玉手箱 ( パンドラ ) を撃たれて
喪なう夏の変貌を出会う

鬩ぎ
鵄尾の死亡通知に鬩ぎながら
つづれ織る金箔のゆるみ
鬩ぐる不可解の時流
宇宙を孤島して残酷から燃えよ

地平線にもたれる疎水
戸籍簿をゆらめく数珠ぶるえ

鬩ぐる
解放区を裸足に駈けて
あらゆる戦慄の転がされ
鬩ぎながら空洞する意志の断たれ

鬩ぐる
鬩ぐりながら熾烈される
宿運を復讐され
茫々する橄欖
いつか 海原から流亡

たそがれ還す梟首の昇り斑
鮫ぐる血を散らばり
さすらわれる薔薇

鬩ぐれよ
高波を揉まれて
鬩ぐられ 歴史する証よ
はじける明星の微笑みかえし
豊熟すぎる鬩ぎの 台風 ( タイフーン )

やや醒めてみよ
柊の放流
宇宙塞じから季節
擾乱 いまだ夢
夢の現実
やや醒めよ朝
朝から拝胎させて
日没まで――

非在……
非在が
おお 呪われて鬩ぐる……

(1972.6.15 白昼)
(初出 詩誌『立待』第8号/昭和48年9月刊/発行者・佐藤泰志 1973 )

(C) 紙田彰, Akira Kamita.


[作成時期]  1972/06/15
[初出]  1973/09/01   詩誌『立待』第8号/昭和48年9月