【登録 2013/10/11】
[
詩篇
]
〈 00/新作〉
diffused reflection
その硬い刃先が 直線的にすべる
音の波動が カットグラスをきり裂き
削ってとぎすまし とがった反射光を
切り子硝子の 多面体の
するどい稜線の
魂なんて 魂の横顔なんて
うつらない うかばない
うみのことと犯罪とはべつべつに
うみのことは物理的現実のものもの
手の届かない だれにも 胸に
胸につきささる あの日 あの波
犯罪は 犯罪者がすべてを負うべきもの
手を出したものすべてが はじめから
あのことをかくしてはじめた 昔から
赤ワインは 流れて
流れてとける 稀釈され 拡散
低い拡散 もどらないエントロピーへ
コヒーレントな波 吃水線/湖面/つなみ
夕空を見上げると しましまの
あかね雲をつきぬけ
純粋白鳥のV字隊列 鉤型の速度
鋭角のくちばしが つらぬく
あおくあおく 光る月へ
土地を追われた者たちは けがされた
汚された場所に戻ることはできない
こころも未来も汚されて
さらに深くけがされて いくのだから
土色の家畜が見える うごめく
灰色をおびた 村外れでひとこえ
こえたかく ホッキョクオオカミの
風に含まれて 赤い砂塵がかさなり
石英や水晶、方解石 切片/断片/剥片
空の高みから そらから
七色のきらめきを発し
雪 こなゆきが舞い
降りてくる 魂の影 だけが
いかさま師のカード 華奢な指の
根元で にせルビーの
指環をまわす 絵札をするりと
いかさま師は 血をさしだし
過去から未来への 欲望の
代償のとき 獄に落とされ
くにも一族もこわれて
ふるい都会の 蒼い夜の深み
ビストロから 明かりが
道筋にひとつきり
溶けだす 柑橘系の
光の夢魔 イリュージョン
建物と青空の 境界の
あってはならぬ 輪郭が
さし入れれば 向うからも
さし招く ガラスのガラスが
からみあう 見えない輪郭が
物質的な光となって
幾何学的に 交錯する
真っ昼間の 飛行機の音速
地の底を 見透かす速度
ものの実体 明確な影
ものの走る 獣 たゆたう乱反射
水の 原色の
破片がおどる
混濁する絵の具の 光色の絵の具に
照らし出され 色点の増殖から
おごそかな黄金面から 溢れるから
土の中に 水の中に
深く浸されつづく 不浄を
よみがえることのない
失われた魂と ともに
いかさまに まどうこともなく
粒子がたがいに寄り添い
誤差の論理で
美しい立体が迫り出してくるから
(C) 紙田彰, Akira Kamita.
(未定稿)
[作成時期]
2013/10/11