【登録 2002/09/15】  
[ 詩篇 ]


魔の一族
   濛気の烟る山岳に男はいた
   声を出せば天の雲割れて
   竜のごとき金色の光の道が拓かれる
爛々たる双眸の奇怪なる形を見よや
げに恐ろしげなる白き瞳
尖った耳と重く揺れる白髪
手に血塗られた銅鑼


魔の族とたわむれし幼き日々を反芻するに草深き山間の清いき細流をまずは想い浮かぶるもやむなきのことなりてところどころ獣の残した道などが思いもよらぬほどに規則的に山巒へとつづいているのを眺め自然の造詣の妙にただただ搏たるるもむべなきとちょうど対応するかのような掌の皺を見つめること数刻いかな祖霊いかな神々が世界を律するのかと旧知なる魔の族に問わんとぞ思いたちて独特の秘法を駆使したりしが魔力とは無縁の齢となりし身には余る業と断念細流を上へ向かって登りつめようと頗る無念の心持にて貌を上げたるに先まで濃い緑の草木に包まれていたはずがあたり一面ま白けき冬の景観へと変じおりなにやら取り返しのつかぬ不思議に巻き込まれているというのに些かの後悔も疑念も生ぜずたださばかりのことと妙な具合に得心しているのだが足どりばかりは確乎としたるさま深山の気に見入られたるもののごとく両側に撓垂れて裸木が白骨の絡まるように枝を伸ばしときおり涸いた音を流れに吸い込ませるように雪の塊が滑ってゆくのではあるが全体に静厳とでもいえそうな不審があって空を仰ぐと全天に降りしきる雪その量たるや凄じきものにてさらにその奥の暗黒は怖気を誘うようにおどろおどろしく背筋を疾る凍てつくような危険な兆候が将来している

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  1989/99/99