★最新原稿★【登録 2013/10/11】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

diffused reflection

その硬い刃先が 直線的にすべる
音の波動が カットグラスをきり裂き
削ってとぎすまし とがった反射光を
切り子硝子の 多面体の
するどい稜線の

魂なんて 魂の横顔なんて
うつらない うかばない

うみのことと犯罪とはべつべつに
うみのことは物理的現実のものもの
手の届かない だれにも 胸に
胸につきささる あの日 あの波

犯罪は 犯罪者がすべてを負うべきもの
手を出したものすべてが はじめから
あのことをかくしてはじめた 昔から

赤ワインは 流れて
流れてとける 稀釈され 拡散
低い拡散 もどらないエントロピーへ

コヒーレントな波 吃水線/湖面/つなみ
夕空を見上げると しましまの
あかね雲をつきぬけ
純粋白鳥のV字隊列 鉤型の速度
鋭角のくちばしが つらぬく
あおくあおく 光る月へ

土地を追われた者たちは けがされた
汚された場所に戻ることはできない
こころも未来も汚されて
さらに深くけがされて いくのだから

土色の家畜が見える うごめく
灰色をおびた 村外れでひとこえ
こえたかく  ホッキョクオオカミの
風に含まれて 赤い砂塵がかさなり

石英や水晶、方解石 切片/断片/剥片
空の高みから そらから
七色のきらめきを発し
雪 こなゆきが舞い
降りてくる 魂の影 だけが

いかさま師のカード 華奢な指の
根元で にせルビーの
指環をまわす 絵札をするりと

いかさま師は 血をさしだし
過去から未来への 欲望の
代償のとき 獄に落とされ
くにも一族もこわれて

ふるい都会の 蒼い夜の深み
ビストロから 明かりが
道筋にひとつきり
溶けだす 柑橘系の
光の夢魔 イリュージョン

建物と青空の 境界の
あってはならぬ 輪郭が
さし入れれば 向うからも
さし招く ガラスのガラスが
からみあう 見えない輪郭が
物質的な光となって
幾何学的に 交錯する

真っ昼間の 飛行機の音速
地の底を 見透かす速度
ものの実体 明確な影
ものの走る 獣 たゆたう乱反射
水の 原色の
破片がおどる

混濁する絵の具の 光色の絵の具に
照らし出され 色点の増殖から
おごそかな黄金面から 溢れるから

土の中に 水の中に
深く浸されつづく 不浄を
よみがえることのない
失われた魂と ともに
いかさまに まどうこともなく

粒子がたがいに寄り添い
誤差の論理で
美しい立体が迫り出してくるから

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/11
★最新原稿★【登録 2013/10/09】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

それでも一歩、ちかづく
  ――E-mailをもとにした構成詩


風がとまったとき 見えなくて
風は風の中を 見失って
かわるがわるか悪がワルかとか

空はスケルトン 空腹な な
無は無であることを 含める ことことも
状態でも さかしらでもなくなく
空はからっぽ 空という枠組み
とりととめもなく 饒舌と情熱!
齢は加速する、か……

あなぐらから脱け出るあなくろな
いくばくかはあなろぐなの相転移

○炎る夏かさねて夜もあかさたな

味見してして 一個
根野菜がぎっしりり! 一個口
一方的にまきちらされた放射能だ 定量的にとかとか
年齢的には気にしても も とか
勝手なことを 押しつけられれ
いつまでも つづくつづく夜だ 夜だが
奥方の庭の色とりどりの トマトの鮮やかかさ
キタミの朝のはじじまりは
カネイシさんの荒っぽいドライブ 思いがけなく
エゾシカがいく どどと 飛び込んで

――*の女房は*にゾッコンとシオタさんに聞いてどれくらいにゾッコンか、多分見に行ったのでしょう。そしたら、ほんとにゾッコン、夫に惚れ抜いている。(タイラカさん)
惚気も国家も それれらに翻弄される
人びとも 哀れなるるか

「『馬引事典』を作るのが夢と語ってくれた」
あややしげな女性の名で
「繰り返し『呼吸』して
 最後かもしれないから」
気まずい別れだが 放ってもおけなな
むずかしいところ それも とも
べつべつの問い合わせか みょうみょうねこなら
「もう、どこにもいない
 かけがいのない貴重さとまぶしさ」

「甘えるのも少し気が引け
 すぐに一個とスライスした数枚のチーズで
 友人の八百屋のヤオシンのご主人のほうから」
仕事を怠けて片付けものもの ばかり
プラネタリウム・チェアをつくつくり
若い連中なので 放射能は避けたく てくてく
「塩加減はベスト、茹で方もベストでしたよ。黄身の中央部のとろみも固ゆで好みのぼくには」
仏壇の引き出しの魔除け (!)として しまって
生意気に どちらが いっそ うそ
夜昼逆転して 昼の世界から ははなれ ばなれ
身軽にならなければ なれ

○年の瀬のあわただしくもあり切なくもありあり

ふたたび皮がふくくれてから 湯をきりきり
せいじかでしがない器に
「あの種の青はいいですね」
正月も日常日常も非日常
わけのわからないゆゆ
にくぐらせる にたっぷり
ひらがなだとおやじとひとさじ
ひらがなのほかにあるか

達磨となりて一歩 外に出ぬことはない
ひきこもりでくよくよ
世の中とは縁がない よくよくよ
「原稿だけはカットしないで、とってて下さい」
にんにくねぎやにらなどをたっぷり ぷり
「はや不要です
 備えがつねには必要でないから」

私とともに散逸するに ちがいなくなく
「たくさんめうつりするほどにあり」

久しぶりに声を 眠いの の
非日常的 きもちがたかぶるぶる
知性のかわいた諧謔性
鋭角的で繊細な思考
イメージの織物 造形的な夢
つながっていることばのなかに特有
情緒情感とは異質 のこと ば
それ自体のしっとり とりと 断じて
物理的なものの アトモスフィア
光の暈(かさ)のがの つよいよい
理由なのか のか

「同系になりがちで破棄寸前の気分
 なかなか自身の影響から抜けられない」
家族それぞれとの思い で旅行
「いつか見たいと渇望し
 死ぬのは北海道がいい!
 両手指の先端のしびれとはれが引かず」

青年たちの人骨が集められ むねがいたた
ひびくものを感じるか あさましい
おもいの中心に 巨大魚のおもさしろ
アモックなまずの串焼き 蒸し料理をたべたべ
サトシとの 最初で最後の短い
旅は終わるる ジンズとのは
次の旅で 果たせるもののか

気持ちが平坦で、何も出ててこない
ごめんなさい こんな明け方ばかりで
薄暗く寒々しい嵐が 丘が 懐かしくが
東京の夜明けも嵐だったが が が
「わたしも疲れてきましたよ。堂々巡りでうっとしい気分に」
買ってくれた人も 画家も盲目なの かの
時期を数え損なったなど ジンズに
「いつか 詩であれなにであれ書いて送ってと囁いて」

突然の真夏なり 頭がくらくらくら
ベランダの蝉しぐれにうたられら
「喜んで跳び上がる」
間に合わなければ、五ドル札でしらんぷり
がらがらへびの劇場 fiverで映画をみて みる

○秋雷に攫はれもせぬ夜長かな

人間に物理的自然は 太刀打ちしようもなく
みょうみょうな気候がかわるがわるで
              悪が ワル
なのは人間のほう だろうか だろう
別院のことなのか 奇妙法といえなく ない
生死の義理立ててとか
かかかわりについては つまびらかにするを を
いやな愚痴が出てくるのもいや いや
「アルコールは抜けましたか」
いろいろいろあるるの
どういうかかわりがあるのかないのか ある
「やはり、ぼくは北海道がいいなあ」

時は過ぎ、齢は朽ちるる
肉体は滅びゆゆく
ああ、人の世のはかなな
人間(じんかん)の悲哀なる かなかな

このところろ 見る洪水のゆめゆめは
大津波のせいか が
体内溺死を暗示してか が いずずれ
人類は在大気圏の水中生物なるや やや

○送り火の蝉の形にをがらかな

眺めてみてもいいものの ざっと
あらゆるものに永遠はないかが
有と無は同一ののことだからが
在らざるもののを考え え
在らざるものものを作り出すかの
その輝きにこそすべて あれあれ
「自然の産物たる『頭脳』の不完全さに対する深い理解
 地球というありふれた偶然」
宇宙に始まりと終わりなどないない
アンコール・ワットで 喰うのエネルギーをえられず
もさもありなんなん
なまずはなまずですなま
カンボジアではこの魚の頭と尻尾が いたるところろ
モニュメントとして蔓延して いたた
記載しておけば死蔵せずに
メールを書いていると、なにやら気力が立ち上がる
なにやら詩人とは 交流をもったいない

歳をふると、時間のたつつのが早い
自分の動きが遅いい 怠惰になっている
何もやっていないのに忙ししい やることが
やるがが 増えつづけ
「限りなく広がる外部」
冬にさらわれないで
「静かな水泡が声とともにはじける」
いろいろなことことを整理し 身軽に

医者を信用できない 慎重ににして
あらゆるゆる苦痛は
がまんすれば 事態は終わわり
慣れてしまい 順応するり
生命は 過酷な環境の中で 一歩ずつつ
前に進むしかないか ない
人類は 地球のみなそこで溺れかかって
魚類から 一歩 も出ていないない

時代は終わっていて 海底で衰弱していくいく
回復する努力は 水の中の宝石なのだっけ
元気なときでなくともも 必死なと きき
宝石の夢を信じられられるかが
必死にリハビリビリに挑んで
気づかずとも 体がかるとに踊りだす

生地を一度は見てみたいだけの
さっと行ってすっと帰ってくる
たびたびメールよ、とどどけ!
「馬というのはなかなか言うことを聞いてくれません」

○ゆめまくら疾走もものかは東風居士

リウマチのせいでいろいろいろ
ベッドがセミダブルなのでこのほたる

半熟は奥方用、完熟はカネイシさん用
「青二才のごとくに交信できたら」
ありふれていななければ味付けは
始発が動いているので 脳味噌が新鮮だ
詩は脳味噌料理だから
燻製の半熟卵ができる
半熟詩人だから 半熟の文字卵

脳味噌の老化のせいか
夏の廊下に幽霊がゆ~らゆら
この魅力が怖さをりょーが
絵と画材でごった返し 泊めるのは無理と
家族もみな、逃げ出してしまうていたらく

「なかなか筋道がみえず、多分時間は足りない」
性格上、最後まで分からないない
「性格を曲げて、是非
 少し残暑が厳しかった」

あの彼女だったか 分からない
締め切りもも 知らされず
版面や行の位置がずずれない 引用もどき
起きだして、ごそごそごそ
フランスパンに燻製サーモンと
いももサラダを

○この齢をしていじきたなくもへらへらと

余分の人生のさらにおまおまけ
すでに出る幕はない ちょっとへんな
こともろくももくろみもはてる
土地となまえも動かすことはない

「夢にかえるのか、かえることがゆめなのか」
はじめての生まれ故郷 生まれがはじめて
どこまで先に いけるかとかとか
「残るものはどうあっても残るだろうし、よしんば残るべきでありながら散逸したとて、まそれはそれでしかたがない」
では、よろしく 寝ます
仕事あたまま、アルコールも抜きき
句もなにもも 浮かばばない

「読むのが夜中とはかぎらないので
 何かかえって恐縮ものです」
悪い記憶なのだが、これを開くとわくわくする
「わたしの侵入をはばんでおります。ふふふ」

問題はありませんね 回答も
洛陽で紙を求めても まわりもも
ある人物へのVia Airを はっそうし
知られざざる家族の はじまりの の
ふるいふるい空気にふれれれば

「何を記入したら開けますか?」
なにもしないで、無視して
そして 考えていることが
分かりかけてきたのか が

*「 」の文は、金石稔氏との交信メールから彼のことばの引用。

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/09
★最新原稿★【登録 2013/10/08】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

表層のかわ

うしは つくしくはないか
うしのかわ たいこのかわ
ながされる ぶたのかおで
ぞうのかわをはぐ しかの
のこされたかわでも いい
かわだいこは わすれられ

好日ではないかわ の身分ではない
酔いのさかりに 猫が通って
さかりのついた性 でもあるまい
立つか立たぬは ねこのかわかお

紅茶と薔薇のかおりだけ
死臭がつきまとい
munt theeだって みな
においの素は 死臭で
あるか かもしれない

人間は 全生物は
屍体をむさぼりて
遺骨と化石に囲まれてて
くらしている のだから

生命は 自分自身をくらうし
あさましいな 生存形式
外延的でなく 内部にふかく
ふかく 縮小している
それだから 全体につながるか
の滅亡が 約束されて

これをもって秘蹟とされるか の

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/08
★最新原稿★【登録 2013/10/07】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

重奏低音

だれもやったことがないのに
なぜ道づれがいるのか だれの

こおりつく場(field)から
烟霧がかさ かさなり
暗い河のとど こおり

岩盤の亀裂が おもい通路に
ひかり文字の 盈ちてて
燐光ともども さらにそこへと

夜に削られる建物 いならぶ廃墟
なにも生まれず 太古からずっと
ずっと太古から 湿った風
そのゆくえに

重力にとらわれ
時間のよどみとよみ
ろかされず その
濃度のままの 流れよどみ

背中にはりついて 溺死体を
ふくらみを 書きのこさねば
仰向けに 筆記具をにぎり

無数の方向から べつべつの
ほそい角度 なので
いくつかのねむり
かさなりあい ながらなゆなや
沁み込んでゆなな

世界の多極的本質の しんしょくとと 
ゅこゅここゃかゆのゆきゅかゆかやかゆきゅかゆかゅかょこよそやそよそやそやそやさやなよかょそょそゅこゅそゅこよさょさよさゆさゆさゅさやさゃなゅこゆさやさよさゆさゃさゅさよさょさよさゆさゅさゆさょさゃさょさよさよさよさゅそやさょしそゆそやしそそやさやさゆそすやすやさせさすゆせやさささかさやさやなよ

闇の中で 誕生するイメージの
ひかりに頼ることのない
明確さをもって もっと
うら切り取られ 闇は
化学反応では とらえられないのかの

ゆっくりと ゆくりなく
宇宙の彼方から 降りおりた岩塊
地球の侵蝕によりりか
いびつな重力の形を あらわに
捻じ曲げら 鈍重な立体の

軸ずれを起こし 地球も
運動系システムの 暗いくらい
情熱(パッショネート)に
ひっつかまれいまに
裂けるいまに
割れるのか のか
生涯の破滅は 約束されて
だからか

ふかい海底に ひかりを
おびた紐 生物がひそんで
海の塩が濃密になりなり
動きを封じて
ひかりも
閉じ込められた耀きもと

地底に減り込んだ あと
べつの世界に 凍結し
放置され 生物的と
いわない鉱物の かたち
凝縮した時間でも
永遠のかたちで つるんと

重力をたたえた 水とみず
静かに反射する ほし星ほし
ふたたびみたびよたび
みずみずにとらえられ
宇宙のみみず運動を つたえて

宇宙をひていしようにも
もう運動するので ありつづけ
ふたたびみたびよたび
永遠をまっとうし ついには
果てるのの 永遠を
奪われようも 存在
そのものの 変わりはないの ない

ひかりの存在は有限なのか
死を導き出すものの
ひかりは それだけの
運動系システムだからからか

エネルギーは閉じ込められられたから、なにかを突き破ろうと 増殖しようと、同量の空のエネルギーを その空のエネルギーで、消滅させら

螺旋、濃淡、断続かなかな
ひかりの 明るさ暗さくらさ
時間の運動にそくしての ことなき
宇宙の中をはいまわるるるる、

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/07
★最新原稿★【登録 2013/10/07】  
[ 日録 ]


〈見夢録〉

2013年10月07日 Blog書斎について

私のWEBサイトはNTTのレンタルサーバーに存在している。
サイトのほかに、WordPressというブログシステムが付帯しているのだが、自己開発のプログラムでは管理が面倒なので、このブログに順次移行しようと考えている。タブレットを使い出したことも影響しているのだが。
要するに、自宅PCや旅行先のタブレットを、自由に使えるノートのような感じで、NTTのサーバーや、Googleのクラウドサーバーや Evernoteのサーバーなどを利用して、どこからでも、自由な形態で、ひとつの作品に複数の端末を集中させたり、それらを公開できるのだ。
これを、仮想的なノート、書斎といっている。パソコンの前で長時間入力するのはとてもハードだが、寝ながらタブレット端末で入力したり、旅先でウイス キー片手に推敲したり、カフェで素材メモを取ったり、作品を公開したり、自由自在。
ネットワークの中に囚われているように見えても、じつは自分の頭の中に原稿用紙とペンがある。囚われない肉体と自由な頭脳。
この数日、作品をこのような感じで書いているが、素材のアレンジも簡単で、古い書き溜めの素材を解体したりして、まるでコンセプトの異なる原稿を書き上げてもみた。どんなものかなあ、と。
しかし、けっこう、加工する作業は捗るし、造形的な面白さもある。なにか、ためていたものが、あふれてくるような気もしている。
また、最近、金石稔さんとのメールのやりとりで、あまり構えずに文章を書くことで、肩の凝りがほぐれたのかもしれない。
年齢的にも怖いものなし、警戒などしないでやりたいことはやる、という気持ちになっているせいなのかも。

旅行していても、入院しても、タブレット端末で自宅PCと連動して原稿が出来上がる。さまざまのクラウドシステムを利用することで、空間的、時間的な、多角的な推敲もできるし、さっと公開もできる。複数の原稿を同時多発的に手をつけることも可能だ。頭をころころ切り替えながらも、筆はかろやかだ。創作意欲というものが、こんなにあふれてくるときがあるのだ。
以前、絵を描き始めたとき、夢遊病者のように四六時中描きっぱなしだった、あの熱情、あるいは執拗さが再現しているのかもしれない。
ちょっと興奮しているのかもしれないけれど。

そんな具合で、おかしくならなければいいのだが、と。

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/07
★最新原稿★【登録 2013/10/04】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

どこかから、遠いどこかから

どこかから、遠いどこかから
もっとも近い、うごかない
うごかない はじめから
洛陽に かえれ
洛陽に帰れ と

ふるい詩の一節の中でも
となえていたのだ けれど
ただ、そのような、声のような
ただ、そのような、まとわりつく ような
気配と、かなしみ、触ることのできない
なつかしさ、あきらめ その ような
そのような、そのような

洛陽にむかって あしを
洛陽にむかって きもちを
すでに 父も母も遠く 昔に
旅立っているというのに

すでに 洛陽という
土地となまえは なにも
なにも動かすことはないのに それでも
それでも そのときまでには、
いちど

洛陽に一歩
洛陽に向かって いっぽ
黄河を夢想して、
生まれた街を 夢想して
夢想して 旅をたび

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/04
★最新原稿★【登録 2013/10/03】  
[ 詩篇 ]


〈 00/新作〉

そこで、母となるか

見たこともなかった
その場所の してみること

ふるい街並みの おくの光の中
母親の亡霊が、彼女の夢魔が

あるいは旧市街の 路地
という路地のうらうら
石塀にえぐられた 穴 鎖された
そのずっと奥 向こうに

コピー写真を撒布した かの
いたるところに
夢の奥ふかく くらいところにも
あらわれてくる

これはなんのあや まちなのか
ただの不幸せなのか しわ しわではない
老人となって ここ

わからないという逃避のふたしかな
わからないという頭皮のわからなさ

そんなこともない ただの耽溺
ただもう進めない よわい よわい

人生のデッドエンドは
すでに過ぎ去って 過ぎ去って
いるとはかぎらない

けれども ははわはは
笑いごとではない 母の夢の日
けれども はてもさてなも
悪口を言い立てても ははわはは
命日というわけでもないけれど

古城の街は 門は
崩れかけた赤壁で囲まれているが
防御されつづけるには
齢をかさねすぎて

歴史 轢死 溺死
ふるくもあたらしくも 国家の石畳も
家族の大黒柱も 系統樹も
雨のしずくの中の ものものの
黒光りするに任せている
はかなさよ そのの

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013.10.03
★最新原稿★【登録 2013/10/06】  
[ 日録 ]


〈見夢録〉

2013年10月06日 ブログ書斎開設の弁

緑字斎の原稿――ブログの公開

書斎を開設しました。
旅行していても、入院していても、タブレット端末で自宅PCと連動して原稿が出来上がる。さまざまのクラウドシステムを利用することで、推 敲もできるし、さっと公開もできる。複数の原稿を同時多発的に手をつけることも可能だ。頭を切り替えながら、筆は進む。創作意欲というものは、あふれてく るときがあるのだ。

ここで、作品原稿を作成、編集、公開していきます。いわば、現場。頭脳の。
基本的に、コメントには返答しないでしょう。
もちろん、勝手に削除したり、出入り禁止にもします。
なんといっても、私の書斎なのですから。

正確にいうと、ここは緑字斎の書斎机です。というより、緑字斎と一体化したデジタル原稿用紙です。世界中、どこにいても原稿を作成するための原稿用紙です。ただし、死ねば消滅するでしょう。生きていても、ゆ~らゆ~らかな。

(C) 紙田彰, Akira Kamita.

(未定稿)

[作成時期]  2013/10/06
★最新原稿★【登録 2002/09/20】  
[ 散文 ]


〈短篇集〉

nerve fiber

 太陽が毒をふり撒いていた。
 海岸道路に沿って建てられていたレストランの二階からは、光の小波さざなみが織りなす黄金の海がすべて見霽みはるかすことができた。白木造りのこの長細い建物の窓は、床から天井まで、海の光を全面的に受け容れていた。
 窓際の席につき、メニューを差し出すギャルソンの短く切り詰められた指先を見て、この男も汚濁にまみれたあの部分をその指で掻き回すのだろうかと妙に落ち着かぬ気持で考えていた。濃いコーヒーと紫色のソースの添えられた洋梨のムースを註文すると、海の輻輳する燦きの下に永遠に沈んでいるものという言葉が浮かんだ。
「あのヨットは飛魚ね」
 二人連れの女客の、若いほうの女の声が窓ガラスを切り裂くような鋭さで伝わってきた。たしかに小さなヨットの帆が光の小波の蠢きにつれて見え隠れする。その姿が舞い上がるものの性質を抱えているような気がしないでもない。
 晴れ渡った空は、その青い色彩の中に充満する陽光の発散する磁気のためか、あるいは水の中にひそむ光への憧憬しょうけいのせいか、躍動する黄金の色を帯びていた。
 年上の女の方が若い女の白い指を両の手の平で押し包み、それから歯を立てるのが見えた。若い女は袖なしの白いワンピースから伸びている腕を折り、テーブルに肘をつき、いささかなげやりで不安定な姿勢のまま相手に指をあずけている。つまり、躯全体の重心がわずか数ミリ年上の女の方にずれているだけなのだが、その傾きが危うい淫らさを構成しているに違いなかった。
 だが、官能というほど強い匂いは感じとれなかった。黄金色の光を吸い込んだ若い女の眸は、乾いた無感情とでもいうべき銀色の光沢を凍結させていた。
 こちらからは年上の女の横顔と襟の広い派手なカッターシャツの背中しか見えないが、その肩が小刻みに揺れているような気がした。だが、二人とも視線は海上のハレーションに漂わせているだけのようであった。女の揃った歯が硬質の磁器の無機質性を思い起こさせた。
「夏に入る前が見事ですね。光が溢れていて、その輝きが強過ぎもせず、弱いというでもなく、長いこと眺めていても疲れることがないのです」
 湯気の筋を揺らめかせたエスプレッソの入った白いカップを木目の浮きでたテーブルの上におきながら、中年のギャルソンが話しかけてきた。
「しかし、何というのですか、眠くなってしまうような、そう、麻薬に浸りきってしまうような、そんな気がする時があります」
「あなたはここに長くおられるのですか」
「ええ、生まれてこのかたというわけです」
 このレストランの、この窓から見えるロケーションの中に、というような意味で訊いたのだが、彼はこの海岸地方と彼自身の結びつきを人生の問題として答えたようである。香り高いコーヒーの濃密な味が神経を鋭く刺激していた。小さなカップに幾分かの悲鳴をあげさせながら、まだ話し足りなそうな男から海の光へと視線を戻した。
 だが、光は、ある種のうねりによって、脂ぎって、どろどろの救いのないような粘着性といったものに陥ってしまうような不安がないでもない。そして、そのとき、俺たちはこのコーヒーのような色の汚濁した血を吐くに違いないのだ。その証拠にこれがあるのだ。首からぶらさげたピルケースの中にしまわれたものを、明瞭に思い描いていた。
「心が溶けてしまうわ……」
 女たちの方から、溜息を伴ったかすかな呟きが伝わってきた。どちらの女が発した言葉なのか、判然としたわけではなかったが、海を眺めていた年下の女の顔が一瞬の無表情といったものに囚われていた様子から、その言葉がこちらに背を向けた女のものであると思われた。

 この場所に用のなくなった翌日、ホテルを出ると、まだ午前中だというのに、すでに膨らんだ太陽は海に繋がれた地方にじわじわと光芒をそそいでいた。
 灰色のドライブウェイを横切って心なし湿気の感じられる浜辺に降りてみたが、砂の中に潜んでいるというよりは何ものかに唆されて滲み出てしまったというべき硝子質の粒子の一粒一粒が棘のように燦き、その燦きがあたり一面見渡す限りの砂浜に広がり、全体がわけも分からずぼんやりと熱を帯びているかのように苛立たしげな光の霧となって海岸を蔽っていた。
 波打ち際に沿って延びる黒ずんだ長い砂の帯が、打ち寄せる波のさざめきに揺れる一枚の永遠の織物のようにその表情を変えていく。それは水平線が弓なりに視界の無限の可能性を抑圧していることと反対に、細部の無限の可能性をつねに崩し続け、そのくずおれたほつれから生じる何ものかの脱け殻が繊維となって織り出される布地なのだ。マテリアル。そして、白く光る厖大な部分との境界に取り残されている壊れた漂流物、貝殻、藻類。その布を断つものといえば、どこの岬にもよくあるけれど、海面と直角に切り落とされた剛直な岩肌を持つ巌の、見るからに窺い知れる鈍重さ。
 向こうの方で、裸足を水に弄ばさせたままほとんど動こうともしない女は、昨日見かけた女だ。潮風に煽られて時々乱れる黒い髪を除けば、ショートパンツと体にぴったりくっついた紺色のTシャツだけの肉体は人形のものだ。蝋細工のなまめかしさというよりも、大理石のような無機質性。若い女の心は水に溶けてしまおうというのだろうか。まるで流木のように気の遠くなる時間をかけて、形を変え、少しずつ砂に埋もれていこうとしている足という錘と一緒に。
「ヨットですか」
 風に声が閉ざされているのか、女の聴覚への意志が閉じこめられてしまったのか、近づいた女の肉体には気配というものが感じられなかった。
「蜃気楼が浮かび上がるらしいですな」
 振り返った女の胸が飛沫ひまつに濡れて、蕾の形まで露わになる。
「違うわ。あの人は行ってしまったわ」
 岬の方に見えるヨットは女たちのものなのだろうか。女は、はっと気づくと、驚いたように目を瞠いて、どこかに宙吊りにでもなっていたはずの生気を蘇らせた。蠢く砂に埋もれた白い足首が現われたとき、筋を立てて反り返った細い足指が妙にエロティックだった。
「あなたは、誰?……」

 どうして、あれを渡したのか、自分でもよく分からなかった。あの女に必要なのはもっと別のいかがわしさだったのかも知れない。外国の港町だとか、古い水辺の宮殿だとか、ミイラの顔をした隊商だとか、幽霊船、そんな話のあとにあれを渡したのだ。
 私は知っているのだ。だが、私も、あの破滅していった女と同じように、この女の磁力に傾斜していたのかも知れない。けれども、この女は自ら発する磁力によって、自らもただその方向にのめってゆくのである。女は招き寄せられたものとして囚われるのである。そして、惹き寄せた側のものが崩れてゆくとき、再びまるで生きていないもののように、磁力の片側で、生きていることとは無関係に幻のように君臨するに違いない。傾けばこちらに惹き寄せられる。だが、若い女は見たとおりにいつまでたっても若いままだ。
 私がそれを渡したからというだけではなく、女が壊れた人形を捨て去るように、何か大事なものから離れていくというのは確かなことなのだ。そして、女自身が壊れた人形になって海を漂い、波に洗われ、繊維をはだけていくのである。

 誰のために用がなくなったというのか。海に閉じこめられる人形に会う前に、私の用はすんでいたのだ、もう一つの泥になった人形が土に還り始めたときに。
 昨夜遅く訪れたこの地方独特の眠りを破る激しい雷雨がもたらした一瞬の覚醒。暗闇のなかに差しだされた鏡さながら、肉に沁みとおる稲光。私は首からぶら下げたものの蓋を開けたのである。
 土に呑み込まれるものと、海に還るもの。どちらが原始であるのだろうか。どちらが無表情であるのだろうか。
 私がいつものように新たな列車に乗り込んでから思い浮かべたのは、夕陽に染められた海のハレーションの向こうに流されていく、剥き出しにされた白くか細い枝のような人間の原型が、飛沫しぶきを浴びて金色に光り、羽をもたげて幾度となくジャンプするさまであった。

(C) 紙田彰, Akira Kamita.


[作成時期]  1985/99/99
★最新原稿★【登録 2011/10/09】  
[ 散文 ]


〈寄稿〉

祝祭という詩篇
――加藤郁乎頌


 祝祭の季節が移ろっていったためか、生きかつ死ぬでもない半ちくで妙ちきりんな世の中と相成った。そしてその頃から、時代の悪い風が吹き始めた。街の中には夜であるべきときですら何やら人工的な光が鉱物じみた粉片となって漂い、宙宇にはまた、罅割れた無数の透明な球が浮かんではゆらめき、ぱちんと音たてて弾けていた。石鹸玉のような物体オブジェばかりだと、口をへの字に曲げてみた。
  シャムペイン伯より一荷、反時代の矜り
  出会ひとは今を命日とする塒だらうか
   野巫やぶの外では神が球根をおきかへてゐる
“EKTOPLASMA”の句が凛として清々しいのは、何よりこの句の姿勢が超然としてこの地上を跨ぎ越えているからである。
 ところで当時、そのことと関連してだったか、純粋思考ということを考えていた。それは永続的な否定思考の向うに生み出される無限の増殖性ということである。――物質という存在が存在の一形式にすぎず、その形式を充たすべく凝縮された時間によって造形されたにすぎぬものならば、地球とその周辺はいかな実質でもありえない。換言するに、瑣末な発明品でしかない時間の法制化におもねて、失われた宇宙領を奪回せんと謀る、ここの衰えた神によって鎖された実験場にすぎぬというわけだ。だが、ここには時間が存在せりという与件だけを応分の神聖儀礼にしたとしても、多神的な厖大な数の宇宙領がすでにここここの作法に従って交錯している。思考すべき存在はなべてそれぞれの宇宙領の露頭であり、ここの側から見ればそれぞれの宇宙の代表的存在であり、地球的実験への介入であるやも知れぬ。だから、地上的存在としての神聖儀礼、つまり肉から解放されれば、それぞれの宇宙領へ帰還することになるのだが、そのときいささか混濁が生ずるようである。思考とは無限の否定という姿勢である。混濁とは、帰属せるとか収斂さることに対する直観的な戸惑いを惹き起こす思考に他ならない。純粋思考とはこれを突き抜けることによって到達できるものであり、それ自体思考的実体であり、ここで改めて己れの帰属すべき宇宙領とその全体性をさえ否定しつづけ、ついにはまったき別箇の宇宙として自らを生み出していくのである。純粋思考とは窮極の次元の存在であり、宇宙的次元ではその根本原因であり、この非和解的、永遠の否定運動が存在と宇宙の無限の自己増殖を誘きだすわけだ。――
  一満月一韃靼の一楕円
  五月、金貨漾ふ帝王切開
       『球体感覚』
 それはたしかに、ないものをあらしめる呪法であったのかも知れない。しかし、世の中は現象の尻尾に振り廻され、切り口の多様さだけに拘泥し始めていた。「批評の回向/声/のない論争のたけやぶやけた」(「弥勒」)――。だが、祝祭における混濁とは、傾いて立つための戦いである。金太郎飴などトンチキにまかしておけ! 爾来、何もかもが滞っている。そう、夜さえも。
 思考のためには夜が必要なのに、夜はいつも稀薄だった。しかし、そのバーは違っていた。充実した黒さを思わせる扉を排して入ると、酒壜の並んだカウンターの奥で、夜の仄かな身重とでもいうべき蝋燭がゆらめき、やわらかなほむらに唆されて、特徴のある横顔の輪郭が浮かび上がった。写楽! そう思うか思わざるかの間の間に、こちらを振り向いた顔のあるべきあたりには烏夜玉の力強い闇が屹立していた。その深い暗黒は魔物めいたおどろおどろしさとはきっちり袂を別って、天狗のような爽快な男らしさに溢れていた。それがただ一回きりの出会いである。
 かの人はその神通力によって、時をへだてた祝祭の幻を再現した。かの人は眼の うからでもあるので、ゆらりと立ち上がると右手を空間の距離を越えて差し伸べ、時間というお喋りを黙らせてしまうような炯々たる双眸でこちらの向うを見据えたきり、何ものかに踏み込む際の姿勢の傾きをゆるがせることもなく、永遠の握手をつづけるのだった。
「地上での思い出に」、かの人はいつもそう考えていたのかも知れない。かの人は祝祭という名の詩篇を築くために、自ら前のめりの詩語と化し、才能の王たちという言語群に体当りしてきた。あの祝祭はエポックメーキングな、ポエジーそのものであった。そしてその司祭は、断じてかの人なのである。才能の王族を招じるためとはいえ王領の秘境にまでのめり込むごとくの探検を敢行したのは、ポエジーへのひたむきさと祝祭への豪宕な意志のなせるところである。
  遺書にして艶文、王位継承その他なし
  棘の遠感に花うけてゐるユレカの子!
  果実は熟れ過ぎないやうに手で考へながら
  はじめに傾きがある/手足を食べる/手足のななめ十字架
 鋭く踏み込み、くたくたにならざるをえずには、王たちのこれら珠玉のオマージュは不可能だ。『眺望論』『遊牧空間』と併せて、それらはこの冒険者の血みどろの孤独と傷だらけの戦いを物語る逆証明である。『荒れるや』とは、この祝祭シンクレティズムへの讃歌であるとともに、これら荒らぶる神々と諸王への鎮魂である。そしてその頂点で、かの人が生き死にをかけて突っ立つことを身を以て示した祝詞こそ、『牧歌メロン』なのであった。この言語混濁の極致ともいうべき句集は、青臭い言語遊戯とか言語実験などとは一線を画し、純粋の深みを導き、ものを生み出す力に溢れる、いわば江戸前の汽水のごとき生命力の坩堝である。
 かの人と遭遇したのはずいぶん以前のことだが、そのときついに『後方見聞録』で涙したとは言い出せなかった。この愛すべき詩人は再び、「白鳥」の詩人と『旅人かへらず』の詩人との原初的な三一致の地点から新たな楕円を描こうとしている。この悪い時代に敢然と背を向けるがごとく、また時間が前に進んでいるなどという迷信を嘲笑うかのごとく、純粋な孤高に達している稀有の詩人、イクヤとは誰だろう?

(初出 詩誌『詩学』第40巻第5号、1985.5刊)

(C) 紙田彰, Akira Kamita.


[作成時期]  1985/05
[初出]  1985/05/01   詩誌『詩学』第40巻第5号、1985.5