〈解離手帖 12〉
[吟行 7.2]
花の名を 知るから花の香りあり
(バラの花壇での「花名」を見ること)
風を裂く 母の声にてはつとする
(母子の遊ぶさまの何に興を覚えるのかを自問しているときに若い母親があげたる声)
幼子の 頼りなき足もとよ
(人形じみた足もとよ)
花盛り 花のかんばせ重くして
折れんとするか花芭蕉
(重力に叛くがごとくの曲った茎)
犬と人とは性的な臭ひがしてゐる
(犬を連れた散歩者の本質的な匂い)
バラの花壇に一本のひまはりの立つ
(色に力のあることに「をかし」)
橋桁の下でエクササイズする心理の暗闇
(隠れて球を橋桁に打ちつけている少年の暗い思い)
潮にまつはる匂ひ
船着場の波打つ(ひきつる)水面
暑光(残光、鈍色の太陽が泛ぶ)
瞬間をとらへる絵よりも流れゆくものをうかがへ
(さざ波の風の動きによって生ずる波の稜線の向き、ぶつかり。交錯する瞬間はあるが、光と影にあおられる時間の推移。)
鳥の飛び立つさま
斜めに疾りて
音たてて羽撃く
鳥の後背から飛びきたる
斜めに疾りて
滑空する
枝に陽光の差す
重なつてゐる部分
裏返つてゐる部分
日の当たる部分
あたらぬ部分
夕陽の静かな光の
通り抜ける道
日と光との関係
隙間から光のしぶきが
注いでくる
(未定稿)
[作成時期]
2001.07.02