【登録 2003/06/15】  
紙田彰[ 詩篇 ]


(彼らの貌が)
――2003.6.3 初めての個展で


彼らの貌が
その思慮深い あるいは狡智に長けた相貌が
この白い室の片隅に泛びあがる

ひととき打楽器の叩音が跡絶えたとき
低いしわがれ声で
おまえの始まりは何だ と
低い低い地の底の部屋と
同化して
問いつめてくる

だが 始まりなどない
あるのは終りだけだといっても
はじまりの光の眩ゆさへの
憧憬はせつない

この部屋のかすかな音の
つらなりと断絶
そして 糸のような液のような
ながいながい嗚咽
なつかしさ、繊細さ

もう ふたたび出会うことのない
はじまりのあの日よ
明るい人工光の 光暈の中で
発光するオレンジの、黄色の、白の織りなす影のあわい

静謐だけが
壁の絵たちとともに
何かをたたえている

(未定稿)

[作成時期]  2003.06.03

(C) Akira Kamita