魔の満月 詩篇「見夢録」(マミ夢メモ……)

目撃者が解剖される密室の若主人の狡智にはマルタ十字が輝いている
二重の殺人事件は腕時計の鎖に入れ替わる
ミイラは実は縫いぐるみのビーカ―である
指の切端と腕の破片が外套の正体を十二時に射撃する
おお帝王の偽装工作は完璧な首塊であり聖衣には紫水晶の占術が見破られている
律動する肉の衣裳のひと筋の紙片に入れ替わる有価証券
無水珪酸の丘陵の高熱太陽は長距離ランナ―の全力疾走であろうか
緑色の半導体に強姦された公園は幼児性の退行であろうか
だが集団トレーニングは順調なダイビングタックルの花冠のままである
樹齢数千年の幻の光電管に自転車の轍がくっきり残っている
永久硬水は浮遊している肉の規律とともに煙幕戦術である
おお純粋事件よ
ルーイスの創発的電信器よ
脚部が陰陽の致命的な運行のただなかで開いてゆく
天使の貌をした湯気
裸足が物置小舎の中に脱ぎ忘れられる
その荒家あぱらやは平行線の廃糖蜜に不吉な矢印を添加する
失速する宇宙よ
銀河の断片よ
夜光列車の光芒に出現する楕円形の植物園のとりわけて第三夜
中央の通路で芝生が帯を作っている
その帯を解きながら集団行動の最後尾から順繰りに道を外れてゆく
少女たちの教室ではグロテスクな実験器材とともに回り道の分だけ乳房が薔薇色である
駅の構内は終点の天国なのだろうか
だが神経症の樹木の枝や根が雪のあつい接吻の地下からめらめら伸長しはじめると沼や池は呪文のうちに塞されてゆく
薄氷の岐れ道を辿る兄弟は落伍したままアブラハムの子であるダビデの子のように肥溜に漬り込んでいる
二階家の一階は汎神論的な密偵である
熱湯は母と妹たちに向けて投擲される
空に架かる抛物状の金曜日は地球の分身である