魔の満月 詩篇「貝殻伝説」 (ゆけども間断なく書物は……)

およそ大嚊をかくべきである
その昔天体配置図には目玉が抉られていた
図版には神々への傾斜と階段ピラミッドの比較が示されている
玲瓏な泉は飛蚊症に罹っている
星座を受胎した金属はその滑らかな水面から露出する
毛を帯びた風が飽和状態の樹々の夜を掠める
灼熱の責苦に苛まれている亡霊の唄が草の根を分け寒冷の地表を渡ってゆく
十文字に隊伍を組み抛物状に瑞々しい翼を散らしてゆく白鳥
だがその鉄錠にも似た羽を貫き葬祭の塔は燦くオーロラを寸断しイム=ホテプの叡智のように気高い白夜に聳り立つ
おおなおも見上げると不凍港の明けゆく天の辺を銀色の鰈が這い廻っている
淡水の海で足首が泳いでいる
ブロック塀をぶち抜いて右拳は砕ける
有史以前の獣を網羅したパピルスはあの洪水で紛失した
男とは器だ
女とは鏡である
ああ空洞の楽天地の紡錐形の分裂直前の太陽の双生児の眼窩の子宮状の太古の花の糸滴から飛翔する星雲の楕円の航海図の秘蹟の出血よ
とどのつまり唾された単調で急速な祈りの条りにおける頭脳の反転
眼鏡が宙を舞う
それから朝までの長い威嚇
視神経には封印がなされている
古代の人生観を語る猫目石
やわらかな伝説の奇石よ
あの石猿は蝸牛に喰れていた
氷河期が文明を呑み込む
オリハルコンは吸取紙であろうか
しなやかな食虫花の茎こそその証拠である
食欲とは精神の骰子投げである
棘皮を生贄にした個体伝承は続けられる
人体の並ぶ天末線に雲が湧き気象台に次々と不吉な知らせがもたらされる