魔の満月 詩篇「貝殻伝説」 (ゆけども間断なく書物は……)

昆虫は繊細な翅を見込まれラジオの役目を果す
もんどりうった拍子に右肩が切断される
肝臓や舌などを切り裂き奥まった十二方形の十二室にそれぞれ備えられた鍋の中に十三番目に給仕される礼拝の煮汁が漬っている
林檎とレモンや各種スパイスを盛り込んだソースに浸されているのは羊の肉である
聖餐の時刻が近づいている
廻廊に敷きつめられた天鵞絨の弾力層のうすびかり
ロリエの香りが発している
子供たちはおもちゃ箱の中で契っている
玩具とは水晶体を真似た呪具だ
おお沈静の中に硫黄の烟とともに鞏固な柵囲いを越えて忍び寄る悪徳の影
善行に励む蛭が素早く察知して吸盤を開く
預言者は失神する
不義密通は蒼白な聖体によって推奨される
バターの脂がたまらない
そのとき暗がりから下唇をひきつらせた妖しい首が浮ぶ
神託が宣べられている
おおそれは数千年の間猿轡を噛まされ蝋燭の巌に鎖で括られていた女の真紅の唇
大いなる交接の器具よ
なんと螺旋宇宙の栄光の襤褸の中は駝鳥の足指ほどのペニスであった
木菟みみずく・鸚鵡・烏・蠑螈・黒揚羽の黒焼の屍衣を纏った瀟洒な舞踊
酒宴に酒がないというのはおかしな話だ
小憎らしいバーテンよ
急いで美酒を誂えろ
禁断の鬼火飛び交う魔の淵で
膿の発酵する沼沢に咲き毒茸と共生しているマンドラゴラが肴になろう
すると円錐形の建物の頂で半熟の文字卵がきらびやかな口腔を開ける
からから笑うその奥に鉛のように重い呼吸器が見える
漏砂のような愛
肥桶の底で蹲る純朴な天使たち
胸を貫く劫罰よ