魔の満月 詩篇「降神術」 (少年は凍れる雪を抱いて……)

降神術

少年は凍れる雪を抱いてめざめる
熱い唾液のこぼれる彼方に
夜の森がひろがると思えて
炬火に蝙蝠が辷る
歩幅をせばめて
樹々の寝息を乱す
水烟のこもる細流せせらぎ
一房の南天が漂う
女のように深い声をあげると
亡霊どもはぞくぞくする
澱に塗れた短剣を
掌に忍ばせ
初心うぷな母親を刺してきたのだ
夜を迎えるために

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』廃刊号 略称フネ/昭和51年刊/発行人・紙田彰/初出誌では「魔の満月に至る口寄せの秘儀 降臨」坂西真弓作、としてある 1976)