[資料] 戒厳令下の北京を訪ねて【上海篇】[07](直江屋緑字斎)

 この上海一つを取っても、人口1200万の人の海を見せつけられた私にとっては、強圧やら、強制やら、密告など、いかに専制支配の力が強大でも、それらを一息に呑み込んでしまう力がここにはあるような気がする。
 私はおそらく、日本のあの暗い時代、しかし父や母が若々しく、貧しくともエネルギーにあふれていた戦後の復興期を思い描いているのかも知れない。
 先に、このような貧しさの中で、とんでもない高級ホテルに滞在するというのはとても辛い気がすると述べたが、しかし、実はここから生じてくるのは、いったいこのような外国人、バランス・オブ・パワーで太ったにすぎない経済だけの国の人間と、このすべてが未知のこの国の人間とは、本当はどちらが貧しいのかという問題である。
 都市だけを結ぶしかできないこの国の政府が、この11億の魂を絶対的に抑圧するということは不可能なことなのだ。

(c)1989, Akira Kamita