魔の満月 i – 4(闇に囁くものたちの勢力が……)

快楽の広間に嫋やかな腕をもつあらゆる種族から選りすぐられた娘たちが幾千人といるのだろう
娘たちは細い躯にぴったり吸着する繻子織の胸や背中や太股の部分の切れ込みの深い衣裳をつけ その中にはときおり一糸も纏わずに優れた肢体を晒けている者も見受けられる
大きな踊りの渦は強大な吸引力を備え いかに火と鏡とを材質にした四千八百八十八人の屈強な若者といえどもたちまち呑み込んでしまうのである
槍や楯や鎧や剣などの武具をことごとく解除した若者たちに 噎せ返るような娘らの裸体が絡みついてくる
様々の形と組み合せの豊富さで媾いが繰り展げられる
大食漢は百二十の大皿に盛られた料理と三十の大樽に詰められた強い酒を平らげてしまう
そのような大食漢が少なくとも五百人はいるのだ
性豪は一度に千人の女を相手にし五十回の腎水を迸らせる
喉の良い者は古今東西二千の歌を披露する
そのどれ一つをとりあげても一千行に及ばぬものはない
力自慢の男は朋友の愛馬四百六十八頭と指揮官の巨大な悍馬を鎖で繋ぎ城外に引きずり出し 深い濠の底に叩き込んでしまう
男たちの荒々しい咆哮と咽び泣くような女たちの激しい吐息が唱和し その切れ切れに獣の断末の叫び 鞭の唸る音や神々を呪う罵声や糞尿の匂い 乱れ飛ぶ血に噎せって惹き起こされる咳や嘔吐 そして人肉の香ばしい匂い 骸骨のからからぶつかる音や決闘に一瞬休止符を叩かれどっと湧き上がるどよめき 蛇や嬰児を弄んでの笑い 酒瓶の粉々に砕ける音や火の燃え上がる凄じいバス そして狂気のソロが高々と歌われ 尻をぴしゃぴしゃやるリズムや転がる食器やテーブルの上での複雑な媾い 変化に富んで組み合うもの 大喧嘩 大乱痴気にかなりの数の乳房や首や陰茎が供託され 尽きることのない快楽の交響曲は壮大な仕上がりに向っている
媾いに食傷し強烈な渇きを覚えてエルドレは 宮殿の中心にこんこんと湧き出る泉であの聖アントニウスの伝説にある数千の味覚を充たすという霊液を流し込み 喉が潤ってゆくと躯の芯からめらめらと精気が立ち昇り その奥に通じている神々の広間へと誘われる
グリュフォンが人頭を踏みつけているさまを彫り込んだ荘重な大扉を押し開けると 老女が柩に横たえられ それを囲んで若いぴちぴちした生贄たちが裸のまま跪いている
天使のように美しい姿をしている十一歳以下の少年たちと頬を桃色に染めた可憐な少女たちが十数人ずつ両側に膝をついて並び 形の良い尻と胸を持つ二十歳をようやく越えたばかりの選り抜きの美女数人が老女の頭の方に座っている
厳粛な気持と淫らな情欲とが鬩ぎ合っているエルドレは柩に近づいて覗き込む