魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

大量の海葱を用意しろ
佞奸ねいかんな奴腹の血球を溶かし 都市の睡りを守るのだ
あなぐらから蜉蝣かげろうのように頼りなげな若者がふわふわと浮かび上がる
爽やかな冷気を吸い込むと精気を取り戻す
白銀の野中に黄金のサンダルが眩い
エルドレは迷宮の地下深くで注がれた毒気をすっかり払い落とす
大きく欠伸をして躯中の関節から小気味よい音を響かせる
階段を駈け昇るように中宇を自在に闊歩する
肌色のコスティを結えた大鷲の短剣 あの緋の扉を守護する衛士から頂戴した宝剣を求めて
青い巌に深々と刺さっている剣を渾身の力を罩めて引き抜く
おお このとき眩暈はいかなる事態をもたらすのだろう
ナイフ捌きの巧みな男には特典が与えられる
アルカナの鍵は古来より武の器である
貴婦人たちが両手両足を括られた囚人の股間に貌を埋める
綺麗な咽喉がひくひく動く
熟した舌が快い
長い舌に巻かれて何本もの男根が聳り立つ
きび畑で刃物を縦横無尽に揮うと寸秒の間をおいて植物が落下する
刑を執行するナイフ使いは気取った仕種で技を開陳する
よく研磨された業物の餌食となって茎が辷り落ちる
男は女どもの羨望を一身に浴びるのである
エルドレはハンプトン宮の出口 いや海洋への入口が凄じい土砂崩れとともに塞されたのを知る
剣が鍵であるならば 扉だけではなく海の彼方も事件簿から抹消されているに違いない
物質の記憶は時とともにある
エルドレはコスティを用いて黄金の剣を佩すると大空へ舞い上がる
明るく澄んだ青い空
闇より出しサンダルの魔力はエルドレを高空へ嚮導する代償に躯の色素を脱き取ってゆく