魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

宇宙の卵を喰ってしまえ
生樹の実は千年の生命を賦されているが毒蛇の一舐で死樹の実となる
腹下しの妙薬には鸚鵡の首が最適だ
エルドレの朦朧状態も聖なる肌サドラの効用によって完治する
何という活力の源であろう
とはいえエルドレの躯は陽炎のように透明になり真綿のごとく軽くなっている
頭の芯に力を罩めて眼を開こう エルドレよ
星型をした下界の中央に円形の広野がある
骸骨の踊りと称ばれる場所は白雪の乱反射で赫奕としている
まさに銀で箔された一枚の紙
エルドレの注意を喚起するのは青い巌の右手の谷底に蠢く厖大な数の黒い小動物である
エルドレは羽毛のようにひらひらと舞い降りると彼らの上に仰臥する
鼠の群は烏夜玉ぬばたまの闇を垣間見させる狭い洞窟へとエルドレを運んでゆく
食欲と性欲だけが人生最大の目的であるうから
聴覚と味覚のみに鋭敏な感覚を有する輩
黒やコルク色や薄茶や代赭色の尻尾を生やした悪意の生き物
鼠どもは最初エルドレの躯を舐め回していたが その肌がとても好みにそぐわぬと悟って齧ることもない
エルドレを重荷とも感じないで背に乗せて進む
だいたいにして鈍なのである
鼠どものトンネルは細く長い
エルドレの躯はその径に応じて伸縮する
消化器の蠕動のように
暗闇に馴れて通路の壁を見回すと 怪異な光をほとんどその内部から発する幾多の金属を認めることができる
磁鉄鉱と黄鉄鉱
柘榴石と風信子石
硫黄と珊瑚
碧石とゴム脂
縞瑪瑙と蜜