魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

密陀僧とクラディアノン
硝子と白い衍文
おお七つの星と七つの塩よ
エルドレは 穴に沿って一条の帯となっている部分が帯緑色の軟らかな含水珪酸マグネシウムの鉱物でできているのを知る
山奥の濛気の烟る都市の一角で物産展示即売会が催される
微光に包まれた公民館の周囲に見世物小屋が並んでいる
老紳士が若い女を連れてオペラグラスを覗いている
貝細工の人形を手に取る太った医者
小学生の一団が曲芸の天幕の中に消える
公民館の中では弁髪の山師が怪し気な支那語を織り混ぜ下手物を売る
垂涎の的となっているのはこの高価な珍味である
ありとある果汁を沁み込ませた熊の掌
百の肉汁を呑み込んだ豹の胎
笹の実の香りを発する虎の膝
いかな水とも馴染む脂に充たされた象の鼻
歯触りの極ともいうべき鹿の腱と素晴しい滋味に富むその陰茎
バターよりも柔らかで芳醇な駱駝の瘤
深山の霊気を宿した猿の頭そっくりの茸
七つの材料を種にした豪華な料理で片田舎の町は賑わう
食事に金と手間を惜しむ奴は肉の恐さを知らぬ下司だ
下戸と下司には用はない
年増盛りが小皺を作って肌触りがいいのよと滑石でできた灰皿を買って呉れる
ぬけてはいけぬが妙にごつごつした外套を見立てた少女もいる
窖は湿気を帯び地面がぬめるように軟らかくなる
呑み込まれるように地下のさらに底へと沈んでゆく
噎せるような澱んだ古い風の溜り場
ぽっかり開いた墓地の記念写真よ
未熟児網膜症の患者が電気鋸で殺害される
絵端書の片隅には唇の跡が残される
坤軸は広い空洞になっていて漆黒の空さえ宿る
魂を毒するような重たい濛気が篭っている
数万の鼠群はひんやり冷たい地面にエルドレを残すと 泥水のように何処かへ四散してゆく