魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

エルドレは横たわったまま地下の空を眺める
緩やかに彎曲する壁が繞らされている
天を摩す岩肌に貼り付くように巨大な像が左右上下に涯しなく 幾百体と彫られている
エルドレの躯の数十倍に匹敵する貌を見ると そのどれもが半眼微笑の不気味な表情でエルドレを見ている
描かれた薄地の衣紋は生命を帯びたように巻きつき 巨像の量塊感をより強調している
彫像は多くが胡坐の姿勢で臍の辺りで印契を結ぶ
彫り抜かれた背後の壁には曼陀羅や古代の人々の行列が繊細秀麗な線描のように平浮彫になっている
これらはいかなる粉本なのだろう
エルドレを見下ろす巨像は視界の途切れる辺りで闇に没する
天まで続く岩壁に重なる異様な貌の群
鈴生りの仮面よ
エルドレは天の中枢を仰ぐ
遠い闇の彼方に名状し難い不気味な月が静脈血のような光を吐いている
エルドレはその天体に我が故郷ラドルの死の姿を見る
霧さえ含むような満月の陰惨な光が巨像たちの貌を妖しく照らす
物質の内部を許多あまたの観客の貌が掠める
不幸の因は早急に摘み採らねばならない
だが聖言に違背するならば不幸の骨髄に達するであろう