魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

差し伸べた右手には翡翠の色をした硬玉が載っているのだ
おお あの竜骨を宿す卵
“説文解字”でその五つの徳を謳われた玉
万年の長寿と偉大な神力の素たる霊芝を髣髴させる神秘
エルドレはかつて味わったことのない眩暈と昂りの只中にいる
エルドレは己れの透明な肉体から脱け出て一個の魂と化す
肉の枠組はそのとき周囲の彫像と同質の物体となる
永劫の時が与えられているのだ
扉に貼り付いた姿勢のまま
エルドレは内部を見る者へと変ずる
魂の遍歴は“物質の幻惑”にどのような形態を与えるのだろう
博奕は男にとって不可欠である
大負けした後で酒を呷り 余勢を駆って旅に出る
自転車泥棒を相棒にして狂い咲きの桜を探すが 商店街の造花しか見当たらぬ
焼棒杭と何とやら
あなたが必要よと言った女が擦れ違う
昼寝から覚めると尾鰭の切れた金魚を掬う
咫尺を弁ぜぬ奴など放っておけ
牝猫がしきりに頭を摩り寄せる
女の身上話は躯に毒だ
留守宅で一服しよう
保線係の躯が裂かれて自動車が炎上する
痔を治療しようと思うなら両手を血に塗れさせなければならない
巨鯨を愛する女の緋色の寝巻が飄る
彼らの眸は何と優しいのだ
午前二時に若者は餅を搗く
怡然いぜんとして三尊天井はいかな憂目を齎すか
肉体を残して エルドレは第一の彫刻に向かう