魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

鼠の兆億の糞の粒からほんのりと湯気が昇る
広大な湯気の世界とともにエルドレの魂はある
天の種々の方向にある雪のような光の帯
壁に住む巨人たちの不思議な音楽が聴こえる
まず三つの声部が絡み合う
高音部が中心になり 低音がそれを温かく支えてゆく
エルドレのゆらめく光の帯は皓々と燦く満月に晒され 緋色のオーロラに変ずる
五つの楽章に頒たれた旋律が流れる
それぞれの楽章は一つの定旋律によって有機的に結合してゆき 珠玉のごとく結晶する
オーロラが一条の細い糸になって エルドレの肉体が握る硬玉を通じて体内にそそがれる
透明な躯に赤味が差す
魂は帰還する
呪いと栄光を浴びて蘇生する
我が主人公“物質の幻惑”は飛翔する
黄金のサンダルと魂の肉体的特性によって熟した天体に向けて浮揚する
巨大な仏像の合唱は頂上に昇りつめる
それぞれ固有の歌を紡ぎ出し 自由に流動しながら 太い一本の糸に収斂する
おお素晴らしき調和
暗黒の空に架かる月の下に 世界は幻惑の譜を夢に見て 最後のピアニッシモを敲く

【詩篇「魔の満月」了】

[外1■]: ぎょうにんべんに枚のつくりの下に黒の正字