魔の満月 詩篇「河図洛書」(低く垂れた倉庫のゆくりなくも……)

だがその裂目に厖大な空洞を造り数億に及ぶ痛点の網羅に侵蝕してゆく頭足類
おお眩暈と嘔吐の灼けつくような紺碧の天空に石炭袋のあの滲みが連鎖しながら訪れる
ぴかぴかした液の中で硬化する腔腸類
宝石箱をひっくり返しての乱痴気騒ぎ
海底住居の中枢にはいずれも光彩を除外した佯狂の乱舞が施術されている
紙片に紙片を幾重にも挿入してゆく
おおひときわ雄大に聳え立つ古代文字の精製塩
骨盤は疾うに神々に逼迫している
絡み合って海溝を迷路に化する屈折率と半植物の図解のほころび
視力検査表に貼りつく獣神は外套の背後に不吉な命令書を縫いつける
それというのも屹立すべき火山帯がメピウス環のようにあまりに永劫の饒舌に拘泥しているからではなくそもそも種の起源に関与する信仰と法制化がドームの中の酸素消費の度合を三拝九拝にしたからである
したがって石灰をその素とする海中は今や雪崩である

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』第2号 略称フネ/昭和50年刊/発行人・紙田彰/初出誌では「連作詩篇 魔の満月・第三部」の一 1975)