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【詩篇】紙田彰



水の眠り


なでしこの散るホタル
器と器の重なり
骨のつながり
かすれた色の花びらが
さわさわと
砂となりてこぼれ落つ

数ヘクタールの皺、父祖の脈搏
雪を割って
光の帯となり
過去をいままた過去として
とどこおる川、小川よ

水を洗うべし
たたえられたものは味方ではない
むしろヒユ
それもテランセラ
はだらの中に血のにじむ

水を透くべし
こねて叩くべし
いさぎよく匂いを消し
そして静かに死なしめる
だが

だが
半肉体と半精神の
輪郭のなさは危険だ
室内は眼の袋
祈りの手が 窓櫺 そうれい を破る

息をころしたパイプオルガン
神の形を遺すしおれた布
白磁の中に眠る水
革命以前に建てられた教会は
いまは傾いで立入禁止

(初出 『詩学』第39巻第2号、1984.2)


(c) Akira Kamita

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