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【詩篇】紙田彰



サトシという少年の冒険


サトシという少年の
頭脳の向こうにある頭脳
誕生しつづける速度という
星のありうべき命に符合して
光の色を越えた色の光
はだけた胸をするどく開いた
肉の迅さ その裂け目
サトシという少年の
てのひらに包まれたものの
熱い叫びを測るものは
サトシという少年を産んだ
ふるえつづける世界と
そのたおやかさを抱く腰
この街は
彎曲すべくもなく
熱く熱く眠る 風の都市
父の役目にある男は いかなる場所においても 愛と哀しみにまつわる ひどく土俗的な 早朝の踊りを ふたたび目蓋に思い描くのである

だが
サトシという少年の
想い出に付随する沙漠
偏光する丘、断面、動物の壁
再生する水の色、かおり、味、水という律法
成熟前の姉の匂いやかな髪の愛撫
かろやかでつつましい眠り
父と母がつらなっている 前方
サトシという少年の夢の向こうで
やはり橋はつづいているのだ
父は愛という非現実的な言葉の もっとも現実的な皮膚感覚につきうごかされる

音だ! 季節最初のワインの勁さ
南から北をつらぬき
こぶしを叩き
未来というあやふやな部屋を
うちのめす

サトシという少年の打楽器!
打楽器!
宇宙の耳鳴りの一斉射を浴びた
父親を称する男は
瞳の向こうに星を棲わせた少年の
名前を呼びつづける
少年の名は
サトシ!

(1990.12.16)


(c) Akira Kamita

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