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【詩篇】紙田彰



これが航海のはじまり!


掻き傷、あの月
裸電球と八百屋の蜜柑
風花を呼び込む
低い力の罩もった声 胴間声

寒空の掻き傷
裸電球と店先の蜜柑
風花を呼び込む胴間声

風呂の中で黒子に魅かるる娘
何かのいたずら書きとでも
おまえの尻にもあるものをと示すが
首を廻らすことあたわず

軽やかな雪の祭り
軽やかさのうちにある酷薄さ
膝頭に鋭い痛みが疾り
北国は体に合わぬと

方解石

へん、痰切飴

光はアルコールの匂いを放っている
こめかみを刺しぬく
鏡の繊維
花裂ける
かせにまかれた舌
体躯を包む巨大な腹鼓
胎児のように悪魔の夢
食器
風の吹く奇しい流星

(1990年代前半)


(c) Akira Kamita

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