秘蹟
祝杯をあげよ
友人の名を呼び
哀惜の過去を願って
子供は生れる
ぼくらの人生を繰り返すため
看護婦の甘いささやきが
ぼくらの命を分断する
無限の拡散
とどこおった海に溺れるように
ぼくはテーブルの盛大な料理を
肥大する腹に
すばらしい勢いで放り込む
ぼくは世界を飽食する
殺人者の熱狂を
貪欲な詐欺師の盥を
またふたたび
呪われた蛇に出会い
純白の獣たちに出会い
ふるいつきたくなる
美人に出会うために
威嚇
隷属
誘惑
それが祝杯の理由
それはぼくの姿でもある
だから
婚姻と誕生のたびごとに
ぼくは ぼく自身を
頭から啖っているわけだ
(初出 詩誌『ZeZe』第3号/1983年3月刊/編集発行人・河江伊久)