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【詩篇】紙田彰



拒否方程式
  七色分割のためのエチュードVII

国家は解体しても
関係に服従することにかわりはなかった。
――堀川正美「ゼロと世界工場」

憑かれたように午後をめくる
あの前史の一ページにふれても
かすかな  *
不吉な電報のように
かすかな音
ガラスにつつまれた森の
深呼吸 それは
ハッピイエンドの暗転
きりたつ渓谷の濃密な暗部を背負い
胸いっぱいの虹を呑み込む
黄変する顔を吊り下げ
きな臭い空空のまたへりへ
昇っていこうか ああ
雷雹の炸裂音!

日時計の闇に示す尖塔
こだまする過去を鳴らして
まっしろに透ける巨象
あらゆる関係を虚妄の渦として
呑み込む虚妄国家 そう
回帰のための永遠の
緑の奔流! 乱反射する
噴水池のつめたい銅貨
(かたかたぜんまいが弾けていた)
なぜ ここに広場
くりぬかれた樹海に浮かぶ
虹の光圏!

かすかな音のふるえ
かすかな声のふるえ
レクイエムのふるえる旋律

君らの生活のうちで
知られえずに えられていた
だから 水彩の踏絵のように
意識の尖端でふみこむと
肉体を
へルの底から貫く光
光の戦慄!
拒否方程式が
君らの空のへりをつくるガラスや
君らの内部を埋める零を
葬っていた
青銅の磨かれた断面をすべりおちる空
金属性の繊毛に被われた 拒否方程式の
本体 やさしくつつむ死の夢が
君らの中の君らを
葬っていた

飛翔!
おおきく開いた翼
胸いっぱいの虹をふるわせ
ふるえる光をふるえぬき
火の鳥のおおきなあくびが
地球をおおきく孕んでいた
だから それは深い寂寥にたたえられた
鏡の球体 その表面を
すべる拒否方程式の
あかくもえたつ虚根の炎が
地球を裁断していた
火焔の森!

日時計の白光する崩壊
雷雹による午後の破砕
かすかな夢にともなう夢の
不連続
(だから寂寥の鏡)
分割する地平線を
低空飛行する数式
逆回りの時間帯! ああ
既に 君らは孕まれていた
ああ 既に
孕まれていたのだから

火の頂! 時の微積分は
鏡のような七色のシャーマン
だから 夢
夢の ふるえる
こころへ……

(『現代詩手帖』昭和48年2月号 1973)


(c) Akira Kamita

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