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【詩篇】紙田彰



裂ける


裂ける
意志を孕む下腹を裂ける
早熟な朝の儀式を裂ける
裂けながら 礫石 さざれ

裂ける
ねぶ りから裂ける
闇忘れの麝香色に裂ける
反照する亀頭の瘡蓋に擦る

流線型の時間を裂いて
つめたくさみだれる
世界をほおばる
ねぶ られる下腹を裂いて
鱗翅目を裂け出す
透明な過去が発光して
白昼を霧に裂ける

裂ける
裂けて堰を切る
欲情や情熱や
精神病理――

ことばを裂ける
時間を裂ける

裂ける
歓びを裂けて
宇宙を焦げつける

下腹から取り出される
憎しみが 裂目の痕跡を
裂け回る
感覚を裂かれて夢となる
錯乱を裂けてからは 何も
生み出しはしない

裂ける
極限から裂ける
空気が乾燥してから
唇を裂ける

非在を裂ける……

1972.5.30 正午
(『現代詩手帖』昭和48年3月号 1973)


(c) Akira Kamita

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