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【詩篇】紙田彰



鬩ぐる


鬩ぐる
水晶をゆるむ塔に篝る
赤赤く発情される蟒を夜景
煌やまぬ埠頭からの鬩ぎ

鬩ぐる
青春に諒恕させて
儀祭をためらわせ
ふるえる存在のしがらむ

メビウス環を変成されて
彎曲の 時制 テンス が絞殺しながら

鬩ぐると
蒼光る海猫に鈴鳴り
いつか
銀濁される 玉手箱 パンドラ を撃たれて
喪なう夏の変貌を出会う

鬩ぎ
鵄尾の死亡通知に鬩ぎながら
つづれ織る金箔のゆるみ
鬩ぐる不可解の時流
宇宙を孤島して残酷から燃えよ

地平線にもたれる疎水
戸籍簿をゆらめく数珠ぶるえ

鬩ぐる
解放区を裸足に駈けて
あらゆる戦慄の転がされ
鬩ぎながら空洞する意志の断たれ

鬩ぐる
鬩ぐりながら熾烈される
宿運を復讐され
茫々する橄欖
いつか 海原から流亡

たそがれ還す梟首の昇り斑
鮫ぐる血を散らばり
さすらわれる薔薇

鬩ぐれよ
高波を揉まれて
鬩ぐられ 歴史する証よ
はじける明星の微笑みかえし
豊熟すぎる鬩ぎの 台風 タイフーン

やや醒めてみよ
柊の放流
宇宙塞じから季節
擾乱 いまだ夢
夢の現実
やや醒めよ朝
朝から拝胎させて
日没まで――

非在……
非在が
おお 呪われて鬩ぐる……

(1972.6.15 白昼)
(初出 詩誌『立待』第8号/昭和48年9月刊/発行者・佐藤泰志 1973 )


(c) Akira Kamita

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