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【詩篇】紙田彰



魔の満月 第二部(習作)


渦紋

首を絞めつける妖気が円形の数枚の花びらを放射し 右方に滴る青い呼吸器にふりかかる火山弾と ひらひら肉質の薄膜が音もなく明るみを閉ざす 緩慢な海を分けて 病的な蒸気機関車が左旋回する軌道沿いに 明方の彼方とともに 加速する 寝室ににぶく 影の遊離体が 滲みでてはいる 歯跡を浮かべるいぴつな乳房 めくるめく即興曲に交わる線分 画布を司る窓枠の中央から 拡がる冬景色 だがひとたび扉を放つならば 押し寄せる血の 激しい匂い 春のあとどりへ向けて このとき炎症を起こしている 銅貨を宙へ嵌ませ ずぶ濡れの帽子に返す そのしぐさに見とれている複数の船員 その脚すべてに活火山の錘りを括り ネガのように透明な複数の男色家 晴れあがる異国の丘に 光を迸らせる 同国人の彫刻 反転をくりかえしながら転がる反転のくだり 蝕みの厚い水の分子が 脂を浮かべている  硝煙が中心からうっすら消え込んで 同心円の鳥どもが一目散に 挑発する

命名者

ごく単純な気流の構成法が記号化される 尾翼の取りつけていない双発機が そのポイントに重なる 赫い牙 むきだしの暗黒 若々しい熱意のつらなり 山脈が 流謫の儀式 小動物がその洗礼をうけて跡形もなくなる 焼け爛れる砂地にひっそりへばりつく布地のような植物群 これらを生体解剖して紙のへりへ定着させると ある種の海図が浮かぴでる 白熱の切り抜き空間から 恨み言の決まり文句が訪れる その裏側には生命体の魔術が織りなす 重金属の液が 充填してはある そのたぴに衝突をつづける飛行体の あてどない 四散 神殿はその靄からたちのぼる紡錘状の旋律である だが朽ちながら歪みのうちにある柱廊には可視性を吸収する性質を与えられる それは拡がりを閉ざす 最後の永遠 予感にあふれる群青の波が擦り抜ける

〈調教〉

木喰鳥。洗濯板の羽根。ある種の光学現象が、首を絞めつける渦紋が、円形の数枚の花びらが、樹木について放射する、逆しまの海。青い呼吸器。音楽会の迷路、ひらひら肉質の薄膜が明るみを閉ざす。火っ淵。不眠症の文句。またあるときには
            その形象がいりみだれて
            ぼくらのまえにあらわれる。右目。左目。両眼の交叉。青い屍。赤い熱病。うっすら拡がる黄色人種の大陸。緩慢な海を分けて、病的な蒸気機関車が加速する。明け方の彼方とともに、影の遊離体が滲み出ている。白い背。女どもの素足。路地におとされる歯跡。このとき炎症を起こしている町はなかなか
                             生きてくれ
                             ない死んで
                             くれない。
犯罪者。繊維。骨を包み込んだ卵の殻。出口。脂肪が深い河をつくっている。ネガのように透明な男色家。歪んだ空のへりをめくると、棘ばかり。貌の痕。射程距離。同心円の鳥どもが一目散に転がる。〈命名者〉はひっそりへばりつく、布地のような植物群に。焼け爛れる砂地に。予感にあふれる群青の波。いびつな乳房。
  よそみをしていると
  その事情がまるで
  よそごとのこととなっては。蝕み。蜜。樹々を縫って通り過ぎる亡霊。数億年の眼。一瞬の朝。虚ろに向いた地底の、あふれる空のへりをめくると、棘ばかりが流れる河がある。選別。寝室に、にぶく。火山弾。めくるめく、即興曲、画布、扉。押し寄せる血の激しい匂い、春のあとどりへ向けて。帽子。しぐさ。複数の船員。硝煙。挑撥する気流。ある種の海図。その靄からたちのぼる紡錘状の旋律である。腥い精力。ふたつに割れる乳輪。港が勃起する。から匂っている。うらがえしている。歴史が、焚火が、はしるが。水の浸蝕がはげしい。賊が、宝が、薬物が、知られてはいないが、鮫の尾が。滴る行手。なだらかな軌道に沿って、にぶい。窓枠の中央から迸る冬景色。銅貨、幅広の。脚のくりかえし。単純な、周囲。双発機が記号化され、洗礼の構成。定着、切り抜き、恨み言。生命体の裏側に訪れる、呼吸。液体。性質。最後の永遠が擦り抜け、妖しい呪文。なにげない朝ばかり。肥沃な、反吐。軽快な霜柱の長蛇が映し出す、鏡の匙。粉々に男根が砕けている。曲線の日に焼ける飢え。大股びらきの館には、リズミカルな出没の儀がある。火の向こうには、教唆が。薄暗いいくつもの卵。骨を包み込んだその殻が流れ始める。一把みの夜が、濃い。朝が、始まる。朝が抜け出してくる、朝ばかりの朝。睡りばかりの畑、不眠症の都市、黄金海岸。押しやられる年輪は〈ついに一条の螺旋でしかない〉。夜は波。駈ける。潜める。すでに、沈まっている、ついに一箇の頭脳!
右を開けば 青い屍
左を開けば 赤い熱病
両眼の交叉するところに
うっすら拡がる 黄色人種の大陸が。蝙蝠の地帯。逆さ吊り。重層の海。紙・布の束ねた建物の上に、ふんわり蔽い、眼の塔は傾いだままこぼれおちる。矩形の山なみ。蟹の動悸。昔から、どこからとなく、茶褐色にふるぴた虹がそこここと降りつける。母なる月経。船型の家屋。聖霊どもの滑降。背中から尾へ開く魚の系、南十字の刺青。旋毛風。淫らな未来がおびき出す、首。山査子。冠。老人。癩の隕石がゆらめく。琥珀の正視。密談。早熟な朝。はじめは
                    はじめられたときから
                    ぬかるんでいる。戦き
閨声。光彩の無定形なは虫類の系。灰色涎。東方巡礼者。ひからびる不躾さ。というわけで、それは広大な原野に小さなそれを置き、酒場という酒場にそれをなげかけ、賭博場の隅でぎらぎら光るそれをつかみそこね、松明に照らされる殉死者の得意満面に唾吐き、それが能う限りの。とんでもない。まら。腹上死。おかま。冒険大旅行。(好きものの嫌い漬け)。杏の木に刻される、小舎の設計法。氷河期。音楽。壷。手拍子。化石の、密林の封じ込める、羅針盤。脳髄の漂泊。表白。谷間から、愛が、百合が、亡命が。あらゆる幻崖の透視体が、過去の霊体を察知している歴史の、あらゆる領域をすういんぐしている。交尾。死面。色事。直立猿人。生きている、いや死んでいる、変圧作用。太鼓腹。瘠せるる胸。屋根裏の村。毒の舌。家畜どもの、喉元の、樹皮。

〈註解〉

木喰鳥。面影のうちに種属もなし、調理人の厚いまなざしもなく、ゆききする書物の記名が靡いている。
洗濯板の羽根。乾いた細いしがらみに透き通る幼時の幻覚が、銀紙に包まれた祭の記載事項に該当するはずはなく。
ある種の光学現象が、首を絞めつける渦紋が円形の数枚の花びらが樹木について放射する逆しまの海。
青い呼吸器。拡がる沈静に、たとえば硝子張りの字引とか、棲家を失った羽虫とかが、無尽蔵に捕われているとして。
音楽会の迷路。木賃宿で世直しの陰謀を計り口惜しき身の所在を、蝋燭の丈さにおいたりして、耳を削ぎおとす。
ひらひら肉質の薄膜が明るみを閉ざす。火っ淵。鎖をインク壷に漬け、夜啼きの烏を描き出すと、深夜の表情がかっと凝固をはじめている。
不眠症の決まり文句。またあるときには、その形象がいりみだれてぼくらのまえにあらわれる。
右目(青い屍)。左目(赤い熱病)。両眼の交叉(黄色人種の大陸)。刻々と、冷え込みのうちに裸にされている女どもが、まっ先に読み出されてゆく。
緩慢な海を分けて、病的な蒸気機関車が加速する。明け方の彼方とともには、影からの遊離体が滲み出ている。
白い背。靴跡を収めた柱時計が、酸化を始める文字の並びのうちに帰路を示していると、そこからは跳ねながら火傷のやってくる。
女どもの素足。雑音が物忘れのように耳朶を叩く。まる三日の間、食物は食べられることを放棄する。
路地におとされる歯跡。折れ曲った体から尿のように噴きでる夢。遺失物係の案内で壁のなかに半年もの。
このとき炎症を起こしている町はなかなか、生きてくれない、死んでくれない。
犯罪者。仰向けに寝床が待っている。星々の移動が突発的な予定調和をやってのける。鉱泉に、やがて映写されているものは。
繊維。くろぐろと珠玉が、語が、爪が伸びだしている。また昼間には到底味合えない金属の流動色が澱んでいる。
骨を包み込んだ卵の殻。みどりの。王制復古の名残り惜し気な精神病棟。砂浜には五色の欲望が。
出口。とりとめのない語り口で神々は深く弔われ、高層建築の吐きだす、細工法。毛が刈り取られている。
脂肪が深い河をつくっている。
ネガのように透明な男色家。雪の後に生まれかわるふりをして、自然公園の猿は投身自殺する。芝生のかわりには、鋭い岩が。
歪んだ空のへりをめくると、棘ばかり。
貌の痕。低い低い殺し声。あたかも季節がはずれていく関節の痛み。調教師の手による動物日記。
射程距離。暴走する憤怒が梯子づたいに逃げまどう、夕餉のまどろみ。よく冠状波紋のできる、どろりとした液。
同心円の鳥どもが一目散に転がる。
命名者は、ひっそりへばりつく、布地のような植物群に。焼け爛れる砂地に。
予感にあふれる群青の波。火素を貯える木枯しが、まるで大車輪のように大陸を一蹴すると、手持ちぶさたの紙片が埋められてゆく。
いびつな乳房。よそみをしているとその事情が、そのままによそごとのものになるほかはないので。
蝕み。復活の前夜、町には白い布を纏った老婆が何千何万となくあふれでて、その手には張型が握られているではないか。
蜜。天井裏の一角に、高名な学者が開かずの間を造る。広間には二十六文字のそれぞれの絵本が乱雑におかれている。
樹々を縫って通り過ぎる亡霊。
数億年の眼。
一瞬の朝。
虚ろに向いた地底の、あふれる空のへりをめくると、棘ばかりの流れる河がある。
選別。ひとつづきの下水管に恋人を流した男が、強力な下剤をともに呑み込む。はつかねずみが毛虱を掻きだし。
寝室に、にぶく。腹がめくれる。水桶が膨れる。裏庭に洞窟が隠されているとする。電信柱には骨盤が架かっている。
火山弾。尖端が水分の豊富な果実。住宅街にうろつく分裂病者。気象観測用の人形が林の中で燃えおちている。
めくるめく、即興曲、画布、扉。
押し寄せる血の激しい匂い、春のあとどりへ向けて。
帽子。焔が多重構造の鏡の中で燃え尽きる。
灰皿の上にうずたかい毛の夜。北半球の最大の謎とは何か。
しぐさ。机の方角が決定する。浴場での宴は吟遊詩人の稼ぎどころにもならず、もし無数の不吉が示されれば。
複数の船員。雨が、雪が、桜が、雲が、星の微粒状の夜が、絶え間ない屈伸運動、紐の河がうらがえりながら、甲高い。
硝煙。鏡と鏡との対話。胎児のあぶなげな疾走はいつのまにか薄汚れた帆の尖に吊るされているとすると。
挑撥する気流。強勢法。食餌療法。脂がうすいこごりを残し、白昼の青天に、空の皮を剥ぎおとしている。
ある種の海図。糖尿病の地核がほのかに波打つと、岩肌には木目の彩やかな家具が、その主とともに匿されてはいる。
その靄からたちのぼる紡錘状の旋律である。
腥い精力。凍える熱帯魚の串刺しの眼。硬質のゆるんだ唇のあたり、磨ぎすまされた斑点がなだらかに弧を描く。
ふたつに割れる乳輪。受皿に果実の種がおとされる。飛翔音。低温でゆでられる黄身。棺に刻まれる象形文字。
港が勃起する。鉱山を駈け、銃を抱えた測量技師。土砂崩れ。豚の丸焼き。発情期の道路に満載される花束の量。
から、匂っている。うらがえしている。報復。執拗な睡り。休息日の朝。歴史が、焚火がはしるが、水の浸蝕がはげしい。
賊が、宝が、薬物が、知られてはいないが、鮫の尾が。
滴たる行手。内臓の柔らかな拒絶。出会いにうろたえる原住民族。
不死鳥の伝説が環を、ようやくに結ぶ。
なだらかな軌道に沿って、にぶい。
窓枠の中央から迸る、冬景色。
銅貨、幅広の。弱い相聞の声が跡切れて、散策の青白い林道が、鋼によって切断される。
祈りの語が毬となり。
脚のくりかえし。海峡がぶくぶく泡立ら、騒々しい群衆が軒並に緋の衣を掲げている。古代の言い伝えが反古にされつつあって。
単純な、周囲。諸々の理由が金縁の額に収められ、牙をむいて語りかける。暖炉があって、お隣りには子供がいて、と。
定着、切り抜き、恨み言。
生命体の裏側に訪れる、呼吸。競馬場の歓声から洩れる。はっとした紙吹雪。葉の生い繁った狂気からは、おとし穴が。
液体。冗長な太鼓に首塊が召される。鉱物の組成が綿密に調べられる。膨らんだ風船や子宮にまつわる、ある種の、風。
性質。得体の知れない土地で、不気味な気象に出合う。奥深い家屋の秘密が、鍵による仕業であるとは。
最後の永遠が擦り抜け、妖しい呪文。見事に限定が付され、註釈は退けられ、大げさな危険が展べられる。
なにげない朝ばかり。希望も、欲望も、消化され排泄されている。
髪の毛には、毒虫が貼りつき、生き生きと冷たい笑い。
肥沃な、反吐。相続税。分与金。未払いの歴史が小言をこぼす。都市を織りなす田舎。海洋を支える、屑。
軽快な霜柱の長蛇が映しだす、鏡の匙。敏捷な哲学者の裁判。その頃、遠隔地では出航の儀式が了っている。
粉々に男根が砕けている。
曲線の、日に焼ける飢え。
大股びらきの館には、リズミカルな出没の儀がある。
火の向こうには、教唆が。およそ困惑しきった表情の膿がしただりおちる。放牧地の乾燥した囲いのうちに、何万の腐蝕。
薄暗いいくつもの卵。発酵。閉じ込もり。意気揚々と退出する、死語。女がまずまっ先に殺害されることになる。
骨を包み込んだその殻が流れ始める。
一把みの夜が、濃い。
朝が、始まる。
朝が抜け出してくる、朝ばかりの朝。
睡りばかりの畑、不眠症の都市、黄金海岸。押しやられる年輪は、ついに一条の螺旋でしかない。
夜は波。市場。魚貝類の毛細管が、ぷつぷつとあらゆる箇所で破れてゆく。光の混濁する中性的な裸像が汚される。
駈ける。ゆっくりと。早朝、早晩。時間違いのあわただしい階段。
登山者の額にある、いくつもの呑気さ。
潜める。麻薬の燃焼。残渣。いきどおり。頂上感はみくびられているか。昂ぶる感傷はよく街区を彷徨してはいるか。
すでに、沈まっている、ついに一箇の頭脳! 右を開けば青い屍、左を開けば赤い熱病、両眼の交叉するところにうっすら拡がる、黄色人種の大陸が。
蝙蝠の地帯。海底から蓄積される、記憶の渦、言い回しの漂流物。
樹木をびっしり這い上がる地虫のうねり。
逆さ吊り。壁に、数奇の運命を辿った老婆が埋められている。聖女。占いの玉にまとわりつく科学性が、食指を動かす。
重層の海。不能の地球。未処理の法則性。たとえ話に鬼婆々のことがあげられると、必死になって気圏を呑み込もうとする。
紙・布の束ねた建物の上に、ふんわり蔽い、眼の塔は傾いだままこぼれおちる。
矩形の山なみ。書棚に豊富な空虚があるとして、人格異常の小箱を開けるとして、峻別の湖に溺死している者は。
蟹の動悸。空白の数行が雨の朝を渡る。塩田が口腔を開げ、次第に夢の気泡が樹木の翳を掠めて走る。
昔から、どこからとなく、茶褐色にふるびた虹がそこここと降りつける。
母なる月経。思考。調整力。不安定な弾機から、訪れる山岳民族。
船型の家屋。激流。星間物質を倉庫に閉じ込める。古代語が蘇生しかかり、それが白蟻によって再び埋もれる。
聖霊どもの滑降。のしかかり。声。檻。庭にあふれる悲痛の池が化学反応を起こし、黒い鉱物の塊となる。
背中から尾へ開く魚の系、南十字の刺青。旋毛風。極地に聳える男たち。河川を呑み込む花弁。ぬかるみ。無機質で構成されている会話が蠢きだす。
淫らな未来がおびきだす、首。
山査子。旧弊の秩序が、その襞から分岐してゆく。箱舟に巣くう魔の、邪悪な気体。精神が外れてゆく街路には、明確さが。
冠。山羊が飛び込む。語群が火の中へ。幽かな思い違いから、図書館の鍵が紛失される。
額に垂れた夜明から。
仙人。法の拘束される地点に、自ずから光輝を発する沼地がある。その平均的な植物群は鍋に入れられて、吐き出される。
癩の隕石がゆらめく。音楽性の物体。少年期が呼び止められ、細長い館に浮かぴ上がる饐えた腹話術。
琥珀の正視。筋肉から弾きだされると、それは連鎖しながら無規定ななにものかに変じて、質問用紙に横棒を画き散らす。
密談。輪、というのは外と内とを区別するために架けられた陥穽。
拡散、というのは惨めにも果敢で勇気ある透明を述べること。
早熟な朝。はじめは、はじめられたときからぬかるんでいる。
戦き。眩暈。粗末な家畜小舎で地形図が記されていると、体験談が線分の持続される目的の故に無軌道に通用する。
閨声。心得違い。水道路の遺跡から登場する生物はぴょんぴょん跳ねながら、磁気を交配している。
光彩の無定形なは虫類の系。持続する殺意は何処からのものか。競技場に貼りつけられる水晶の冷たい火とは。
灰色涎。機械的な装飾。躾られたことのない倫理。抑揚のあるせせらぎが形を成して、巷間に漂いつつ。
東方巡礼者。音波探知器。馬具。踵に毛の生えた動物が、紙のように揺らめく建物が、制限された天体が、述べはじめる。
ひからびる不躾さ。陽気な崖から、続々と立ち直る不正。工芸品の数々、とりわけ壷の部類などの、爆発。
というわけで、それは広大な原野に小さなそれを置き、酒場という酒場にそれをなげかけ賭博場の隅でぎらぎら光るそれをつかみそこね、松明に照らされる殉死者の得意満面に唾吐き、それが能う限りの。
とんでもない。値段表が欠落している星座。袋詰めの脚。隣接地域の扉は音もなく擦り抜けられている。
まら。寄宿舎の屋上に新聞広告が掲載されている。裏通りには変死体。遠心力で客船が見事に沈没する。
腹上死。言外のこと。不断のこと。聖体拝授の儀。刻限を守って励行される鉄棒運動には首のない肉体が供される。
おかま。妣が大陸。規則正しい学習。原始林とその運河はさらなる野望をもつとして、獣ならば影を置き忘れる。
冒険大旅行。(好きものの嫌い漬け)。悪意を存分に浴びて、姑息な信仰者が夜毎の、ある誘いを心待ちにしている。
杏の木に刻される、小舎の設計法。
氷河期。おびただしい架空。綱は緑の芝で編まれ、結び目ごとに現代的食器が吊られてはいる。
音楽。暦が抜けだす。用具は整理され、室内には何もない。部屋さえも。魂などという通行人が食らっているのだ。
壷、目印に手首をぶら下げる。山道。頁。空を分けて木材の軌道が敷かれる。海岸線に抱きついている語も、また。
手拍子。椅子。眼張り。弱音器。なだらかな闇の梯子からこぼれる疲労感。手記には、とどめられた傷口が膿んでいる。
化石の、密林の封じ込める、羅針盤。
脳髄の漂泊。壜。際限ない景色。そのためにか、誰知れぬ拡張が高い代価を支払い、また告訴状をも受け取ったりして。
表白。なんとか。どうにも。からきし。けっして。はあ。そこのところ。ちょっとでも。いいや。まさかのことでも。
谷間から、愛が、百合が、亡命が。
あらゆる幻崖の透視体が、過去の霊体を察知している歴史の、あらゆる領域をすういんぐしている。
交尾。不断の下痢症状。永遠する嘔吐。亡失。文章をららつかせる書物。切って落とされた天体が細分化されてゆく。
死面。子供たらの頭にあるのは、飛行機だとか、建物だとか、武器だとか、あるいは言い伝えにある、不吉な玩具。
色事。墳墓。仕掛けのある空箱。鏡のもっとも手前にある、気違い。棘々しい月の夜は、珍しくも、めくられている。
直立猿人。超大な構想。火山帯を潤ませる激しい雪。高速道から読み取るのは、日付。なに気のない邪悪さ。
生きている、いや死んでいる。変圧作用。
太鼓腹。過疎の村。未開の都市。あわただしい鳥類の逃亡の後に、夜を引き摺る百虫の王たち。
瘠せる胸。反転しながら転がる反転。虹の両端に健やかな童子はいるか。照明係がちょっとしたはずみでとろけだす。
屋根裏の村。製図。眼底。数枚の王国がいちどにばらりと消去される。廊下には、公園の夜が待機して。
毒の舌。あれが離れてゆく。華やかな街に出没する聖体。方策。綴り方。説明するのは容易ではないが、が壊れてゆく。
家畜どもの、喉元の、樹皮。
一九七四年二月〜三月

(初出 詩誌『あすか』第5号/昭和50年5月刊/発行者・汐田花衛 1975)


(c) Akira Kamita

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